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馬産地往来

2021年2月25日

シンボリクリスエスとクロフネが死去

後藤 正俊

 名馬の死亡が相次いだ。昨年12月8日にシンボリクリスエスが蹄葉炎のため、繋養先の千葉・シンボリ牧場で死亡した。21歳だった。今年1月17日にはクロフネが老衰のため繋養先の社台スタリオンステーションで死亡した。こちらは23歳だった。シンボリクリスエスは2019年、クロフネは2018年にすでに種牡馬生活を引退していたため、19年のキングカメハメハ、ディープインパクトが死去した時のような馬産地への直接的な影響はほぼなかった。だが10年前の2011年のJRA総合リーディングサイアーで1位キングカメハメハ、2位ディープインパクト、3位シンボリクリスエス、5位クロフネと上位を占めていた名種牡馬たちは、ひと足早く2015年に死亡した4位ステイゴールドも含めてすべていなくなってしまったことになる。競馬界の10年は恐ろしいほどの速さで景色を変えていくものだ。
 シンボリクリスエスの種牡馬としての成績はじつに特徴的だった。今年1月末時点の産駒の収得賞金を見ると上位26位までがすべて牡馬・セン馬で占められている。G1勝ち馬5頭、JRA重賞・地方ダートグレード競走勝ち馬は他に22頭いるが、これもすべて牡馬・セン馬なのだ。これほど極端な成績の「牡系種牡馬」も珍しい。
 その牡馬産駒の筆頭が菊花賞、ジャパンCを制したエピファネイアであり、最良後継種牡馬にもなっている。エピファネイア産駒は2019年にデビューし、初年度産駒デアリングタクトが牝馬三冠、アリストテレスが菊花賞2着、AJCC優勝。現3歳の2年目産駒からもホープフルS2着のオーソクレースが出ている。2世代だけで2020年JRA総合リーディングサイアーは9位に食い込んだ。種付け頭数は毎年210~240頭台と高い人気を誇っており、初年度から4年目まで250万円だった種付料は2020年が500万円、2021年は一気に1000万円に上げられたが、それもすぐにブックフルになっている。母シーザリオがスペシャルウィーク産駒であるため、ディープインパクト牝馬をはじめとしたサンデーサイレンスの孫世代と交配するとサンデーサイレンスの3×4の配合になる。その交配のしやすさも人気の一因となっており、ロードカナロア、ドゥラメンテ、キズナらとともに今後の種牡馬界を牽引していく存在になるに違いない。
 シンボリクリスエス産駒のもう一つの特徴はダート戦での優秀な成績で、JRA通算成績(1月末現在)は芝492勝に対してダート527勝と、意外にもダートの方が勝利数が多い。ダート代表産駒のサクセスブロッケンは種牡馬入りできなかったが、ルヴァンスレーヴが今春から社台スタリオンステーションにスタッドインした。種付料は150万円だが、同施設に他にはダート系種牡馬が少ないだけに、かなり人気を集めそうだ。芝・ダートともシンボリクリスエスの父系はその勢力を広げていくに違いない。
 芝・ダート兼用という面では、クロフネの異能さはタケシバオーとともに日本競馬史に残るものだった。芝のNHKマイルCを1分33秒0で制し、ダートの武蔵野Sは1分33秒3の日本レコード。このレコードは昨年の南部杯でアルクトスが1分32秒7をマークするまで19年間も破られなかった。JRAでの産駒通算成績(1月末現在)は芝377勝、ダート1004勝とダートに偏っているが、産駒の収得賞金上位は障害のアップトゥデイトを除くと、ホエールキャプチャ、アエロリット、カレンチャン、スリープレスナイトと芝馬が占めている。異能さは種牡馬としても健在だった。この平地代表産駒はいずれも牝馬で、この点ではシンボリクリスエスとは対照的な種牡馬成績になっている。
 JRA総合リーディングサイアー成績はベスト10入りが計10回とシンボリクリスエスの6回を上回る成績だったが、活躍馬の多くが牝馬だったため現在のところ後継種牡馬がフサイチリシャールとテイエムジンソクの2頭だけという点がやや寂しい。父系の継続は現在のところ厳しい状況だが、2019年生まれの最後の世代には38頭の産駒がおり、この中から種牡馬候補の誕生を期待したい。ブルードメアサイアーとしてはすでにノームコア、クロノジェネシスなどを出して実績を残しつつある。優秀な牝馬産駒たちは、今年の牝馬クラシック最有力候補のソダシをはじめ今後も繁殖入りしていくので、ブルードメアサイアー成績は飛躍的に伸びていくだろう。
 シンボリクリスエスとクロフネがファンに強烈な印象を残したのは「ぶっちぎり」の美学だった。シンボリクリスエスのラストランの有馬記念、クロフネの武蔵野Sとジャパンカップダートは鮮明に覚えている。ぶっちぎりは、ファンをワクワクとさせ、時には鳥肌を立たせるような、痛快さと底知れない魅力に溢れている。その子孫たちにも同様な魅力が伝わり競馬を盛り上げてくれれば、時代の変遷の寂しさを少し和らげてくれるかもしれない。





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