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馬産地往来

18/06/25

レベル高まる日本産種牡馬

後藤 正俊

 「平成最後のダービー」と呼ばれた第85回日本ダービーは、そのキャッチフレーズにふさわしい幕切れとなった。19度目の挑戦で遂にダービージョッキーの称号を得た福永祐一騎手の「(ダービー制覇は)福永家の悲願でしたから」というコメントは、天才と呼ばれた父・福永洋一元騎手の活躍と、ダービーを勝てないまま引退を余儀なくされた事故をよく知っている世代にとっては、なおさら感慨深いものになった。父が初めてダービーに挑戦したのは昭和(以下S)45年のタニノモスボローでの14着。その年から9年連続でリーディングジョッキーとなったが、ダービーは計7回の挑戦でS53年カンパーリの3着が最高。父からバトンを受けた息子はこれまでG1・20勝を挙げていたが、ダービーは平成(以下H)19年アサクサキングス、H25年エピファネイアの2着が最高成績だった。父の初挑戦から49年目、親子の悲願だったダービー制覇を平成最後に実現させた。
 福永親子の物語と同等に印象深かったのが、勝ったワグネリアンの血統だった。カブトヤマ(S22年の日本ダービー馬マツミドリの父)、ミナミホマレ(S29年ゴールデンウエーブ、S33年ダイゴホマレ)以降、輸入種牡馬の大攻勢により途絶えていた「ダービー馬はダービー馬から」は、シンボリルドルフ(H3年トウカイテイオー)が33年ぶりに復活させ、その後はタニノギムレット(H19年ウオッカ)、ネオユニヴァース(H21年ロジユニヴァース)、ディープインパクト(H24年ディープブリランテ、H25年キズナ、H28年マカヒキ)、キングカメハメハ(H27年ドゥラメンテ、H29年レイデオロ)と続々誕生していた。今年もディープインパクト産駒ワグネリアンが優勝してダービー親子制覇は4年連続となり、もう珍しいことどころか、常識になりつつある。
 だがワグネリアンのダービー制覇は、これまでの親子制覇とはやや違った。母の父がキングカメハメハであるため、父も、母の父も日本ダービー馬という初めての例となったのだ。父系も母系もダービー馬という配合からダービー馬が誕生したことは、それだけ日本の生産界のレベルが高まってきたことの証明でもある。両種牡馬は日本の生産界の双璧を成す存在なのだから、その配合から多くの名馬が誕生してくることは当然でもあるが、平成最後のダービーでワグネリアンが、ディープインパクト×キングカメハメハ牝馬によるG1勝ち馬第1号となったことは、ひとつの時代の区切りを感じさせる出来事だった。
 その意味で今年は日本の馬産の進化を示す印象的な年になりつつある。5月5日、英ニューマーケット競馬場の英2000ギニー(G1・芝8ハロン)は、ディープインパクト産駒の日本産馬サクソンウォリアー(牡3、母メイビー)が優勝した。同馬は6月2日の英ダービー(G1・エプソム芝12ハロン6ヤード)で圧倒的な1番人気に推されながら4着と初の敗戦を喫したものの、このまま順調に行けば将来はクールモアグループの主要種牡馬となり、ディープインパクトの血をさらに世界中に広める役割を果たしていくに違いない。また同じく5月5日、米チャーチルダウンズ競馬場のターフクラシックS(G1・芝9ハロン)は、日本産でセレクトセール取引馬のヨシダ(牡4、父ハーツクライ、母ヒルダズパッション)が優勝した。さらに5月8日、仏サンクルー競馬場のグレフュール賞(G2・芝2100メートル)は愛国産のディープインパクト産駒スタディオブマン(牡3、母セカンドハピネス)が快勝し、6月3日、シャンティィ競馬場の仏ダービー(G1・芝2100メートル)も制覇。ディープインパクト産駒は同一年に日仏ダービー制覇を成し遂げた。これまでも仏2000ギニーのカラコンティー(父バーンスタイン)、仏1000ギニーのビューティパーラー(父ディープインパクト)、英1000ギニーのナタゴラ(父ディヴァインライト)など日本産馬、日本供用内国産種牡馬の産駒が海外クラシック制覇をした例はあるが、今年の日本産種牡馬の世界的な活躍は特に目覚ましい。
 1980年代まで長く続いた輸入種牡馬全盛期には、リーディングサイアー上位50頭に内国産種牡馬が2〜3頭しかランクインしない年度もあった。あの5冠馬シンザンですら、種牡馬入り当初は交配牝馬がまったく集まらなかったし、社台スタリオンステーションにはノーザンテーストの代表産駒であるアンバーシャダイ、ダイナガリバー、ギャロップダイナも供用されなかった。だが今年のJRAリーディングサイアー上位50頭(5月末現在)のうち内国産種牡馬は28頭。外国産種牡馬22頭には競走馬として輸入された馬が7頭含まれている。ベスト5はいずれも内国産だ。サンデーサイレンスの死後、その形勢は完全に「内国産種牡馬の時代」へと逆転している。来年からスタートする新しい元号の時代は、日本産種牡馬の血がどこまで世界に広がっていくかが、焦点になるのかもしれない。