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日高便り

2017年10月25日

人手不足が深刻な馬産地

北海道事務所・遠藤 幹

 この稿が出る頃には、HBAオータムセールも終了している。おそらくはサマーセールにも負けない活気を帯びたセリ結果になっているのではないだろうか。馬産地日高は、久々の好景気に沸いている。私の会社でも、早々と来年の種牡馬ノミネーションの予約が相次いでおり、「今から手配しないと人気種牡馬はすぐに満口になるのでは……?」と、ある種の強迫観念にも似た、気ぜわしい気持ちになっている生産者の方も多いように感じる。
 私の会社所在地が管轄エリアである苫小牧のハローワークによると、農林水産業(軽種馬産業も含む)の求人倍率は、他産業と比べて突出して高く、4倍を超えているそうだ。つまり求人4社に対し1人応募があるかないかといった状況なのだ。事務員の場合は、真逆の4人の応募に対し、1社しか求人がない状況であり、雇用のミスマッチ感が漂う。日高地域を包括する浦河のハローワークでは、全産業の求人倍率はここ最近じわじわ上昇を続け、1.8倍を超え、まもなく2倍に迫る勢いであるという。この数字は、北海道どころか全国の求人倍率をも上回っており、リゾート施設建設が相次ぎ好景気に沸く「ニセコ地域」を最近抜いて、道内トップだという。その上昇要因が、軽種馬産業と建設業の求人過多というから、人手不足の深刻度合いが見て取れる。
 私の会社でも、事務所やスタリオンステーションで働く人材を現在も求めていて、競馬雑誌や競馬産業に特化した求人サイト、はたまたハローワークへの求人登録など、それなりの媒体を使って求人に励んでみたが、一向に反応がないのだから、先に示した数字は、私の実感とも全く同じだ。
 昔話で恐縮だが、オグリキャップ人気で沸いた競馬ブームの頃、会社で事務員を募集したところ、20を超える応募があったことを記憶している。中には国内最高学歴のエリート証券マンまでが応募してきて、さすがに当社には合わないだろうと面接を見送った記憶がある。その時代とは状況が違うが、それにしてもすっかり様変わりした業界の求人状況には隔絶の感がある。
 好景気の実感のない日本経済ではあるが、新卒や転職にかかわらず、それなりに求人も多く職探しが容易になる中にあって、軽種馬産業をはじめ、建設業や、飲食店などのサービス業は、労働条件その他のイメージが良くなく、敬遠されているのだろうか。しかし、昔はいざ知らず現在の軽種馬牧場の大多数は、給料の水準もそれなりで、社宅や社会保険、厚生年金などの基本的な福利厚生も完備されている。休日は、生き物を扱う関係で、やや少なめではあるが、トータルで考えると手元に残る可処分所得も多く、働きやすい環境はできていると思われるのだが。
 競馬場にもファンが戻ってきつつあり、JRAのコマーシャルなども若者をターゲットにした戦略が見て取れる。私もそうだったが、馬産地に職を求めた若者のかなりのパーセントが、競馬の魅力にはまったというケースが多かったと思う。しかし、現状ではライトなファンが多く、さらに踏み込んで競馬に携わる仕事がしたいといった熱意までには昇華していないのだろうか。
 いずれにしても牧場の求人不足の現状は、後継者問題と並ぶ大きな問題である。最近は、60歳を超えて働くホースマンの方も多いが、このままさらに10年の歳月が流れると、人材不足が生み出す馬産地の風景は大きく様変わりしそうだ。人の枯渇は、ひいては地域の衰退につながる。空恐ろしさを感じざるを得ない。

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