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2022年10月25日

絶好調なサラブレッド市場

北海道事務所・遠藤 幹

 9月20日から3日間開催された日高軽種馬農協(HBA)主催のセプテンバーセールは、当初懸念された台風の影響もほとんどなく、盛況のうちに終了した。上場馬531頭のうち売却頭数が413頭、売却率は77.8%、売却総額20億9165万円、平均価格は506万円を記録した。
 最終日の終盤に私はセリ会場へ赴き、しばらくセリの雰囲気を眺めていた。若手鑑定人のリズミカルなセリ上げ発声に呼応し、会場内とオンライン参加の買い手の競い合いが続いている。一定の局面で値が止まるとすかさずハンマーが叩かれ落札者が確定する。それ以降もセリは途切れることなく次々と落札者を決定していった。業界に長くかかわる者として、落札していただいた購買者の方への感謝と上場する生産者への応援が入り混じった、ある種の安堵感が私自身の心を通り過ぎるのであった。
 正直に言えば質・量ともに中級セールであるこの市場において、破格の売却率や税込みで500万円を超える平均価格など、10年前の馬産地では到底考えられなかった。2019年に実質的に新設された現在のセプテンバーセールは歴史が浅いので、1年において最多上場頭数を誇るHBAサマーセール(8月開催)を例に、セリ成績を比較してみよう。10年前の12年は、1190頭の上場に対し566頭の売却(売却率47.6%)、平均価格429万円だったものが、22年では、1237頭の上場に対し958頭の売却(77.4%)を記録し、平均価格は733万円にも達している。10年間で全く趣の違うセールに変貌したことが、この数字からも明らかなのだ。7月の当協会主催のセレクトセールやHBAのトッププライスセールであるセレクションセールと比較し、上場馬の質のばらつきもあって売却総額や平均価格は相当下にはなるのだが、それだからこそ高い売却率や一定の水準に達した平均価格が驚きでもある。
 セリの結果は本当に有難い限りなのだが、ここまで馬の売れ行きが好調なのは何故だろうかという疑問も湧いてくる。様々な要因が考えられるだろうが、主要な理由と思われるものを3つ取り上げてみたい。
 1つ目は、JRA、地方競馬ともに馬券の売り上げが好調なことだ。日本の経済成長率の鈍化が著しい中にあって、競馬主催者の成長率は国内成長率をはるかに上回っている。この10年におけるJRAの馬券売り上げで見れば、12年の発売額は2兆3943億円だったものが、21年には3兆911億円と、29%もの伸びを記録した。地方競馬に至っては3306億円の売り上げが9645億円にも達し192%もの伸び率なのだ。日本の実質GDPは、この間518兆円が537兆円に増加したものの3.7%の伸びにとどまる。関係者の地道な営業努力やネット発売額の激増などが主要因であるが、売り上げ増に伴い賞金や手当なども大きく増額されたことが、馬主にとって競走馬を所有するインセンティブになっていることは確かだ。高額賞金獲得を目指すならセリや庭先で誰よりも良質のサラブレッドをいち早く手に入れたいという馬主心理の高まりが市場を強力に後押ししているのは間違いないだろう。
 2つ目は、購買者層のスケールアップ及び人数の増加だ。トッププライスを誇るセレクトセールに参入される購買者層は近年、従来の高額馬購入層に新規参入組ともいえる若手経営者層も加わりセリは大いに過熱している。また、これらの方々に続く購買者層も分厚くなって、馬主の皆様の顔ぶれを眺めても本当に数が増えたという実感が強い。先の競馬ブームの時代は不動産業や地域の建設業経営者の方がかなり羽振りを利かせていた印象が強かったが、現在は上場企業のオーナーを始め資金的にもスケールアップされた方々が競い合う世界になっているのであるから、売り上げアップも当然と言えるのではないか。
 3つ目は、生産界を始め競馬産業のスケールアップやスキルアップが続いていることだ。上場される馬の質、血統が良いのは当たり前。育てられる環境や与えられる飼料、放牧管理や育成技術や施設の進歩、獣医師の技術も高度化し、本当に素晴らしい馬の比率が劇的に高まった。また生産者や育成牧場間の競争も激化し、経営規模もさらに大きくなってきている。日本産馬の悲願である凱旋門賞制覇はいまだ成し遂げられていないが、海外レースで活躍する日本産馬もごく当たり前の光景となり、世界と比較して決して引けを取らない質の高い競走馬が、ある程度まとまったボリュームをもって生産されているのが、今の日本の馬産と言えるのではないだろうか。
 セリの成績で見る限り、馬産地が上向いてきたなと実感できたのは15年前後。一般セールでも売却率が65%を超え、3頭のうち2頭は売れる時代になり、やや遅れて平均価格が上昇した。現在産地で中核を担う40歳~50歳前半の生産者の皆さんは、若かりし頃に父親が経営する牧場の大変さを十分過ぎるほど肌身に感じてから牧場経営に参画されている。その分経営に対し大変慎重かつ手堅い方も多いように感じる。
 ひとたび状況が変われば、高額な趣味の世界である競走馬所有から撤退される方はたくさん現れる。だからこそ現在を見据え将来を予測した牧場経営のかじ取りが求められる。その結果がセリでの好調な売買成績となって大きく実りつつあるのは確かではあるが、「馬産は水物」でもある。今の好況に浮かれることなく、長い冬の時代を経験した馬産地が次の寒波に十分耐えられるような体力を、私の所属する会社(株式会社サラブレッド・ブリーダーズ・クラブ)も含めて蓄えなければならないと思う。
▼日高便り・脚注
※文中の金額は税込。

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