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2007年4月1日

岩手競馬の存続に向けて

歴史の地から競馬の灯を消すな

北海道事務所・遠藤幹

 一度は岩手競馬の廃止宣言をした岩手県議会は、 その後一転して存続の道を選択した。
 3月19日、 岩手県議会は臨時議会本会議に上程された岩手競馬等に関する補正予算修正案を1票差で可決し、 岩手県知事も 「岩手競馬の存続」 を約束して、 岩手競馬はすんでのところで即刻廃止を免れることになった。
 この報は直ちに北海道の馬産地をも駆け巡り、 まずは競馬の当面の存続に安堵する意見が大多数だった。
 5年前の2002年11月、 岩手で開催された 「第2回JBC」 の観戦に盛岡市を訪れた私は、 新設された競馬場・オーロパークの壮大さにただただ驚くばかりであった。 1周1600メートルのダートコースをメインに、 内側には1周1400メートルの芝コースを備えたアメリカ風のコース、 壮大で華麗なスタンド、 場内各所に配置された彫刻や絵画など、 この競馬場施設にかけた岩手競馬関係者の意気込みを強く感じたものである。
 オーロパークから望んだ秀峰・岩手山の雄々しき姿が今でも目に焼きついているが、 主催者サイドの心のこもったホスピタリティや、 私ども生産者に配慮した数々の演出にも感嘆した記憶が残っている。
 JBC当日のレーシングプログラムをめくってみると、 本家アメリカのブリーダーズカップに範をとったJBC競走創設のあらましや 「生産と競馬を結ぶ」 といったJBCの基本理念を手際よくコンパクトにまとめた解説を、 大きくページを割いて掲載しているのが目立つ。
 生産者主導で開催されたJBCの意義やその重要性を、 他のどの地方競馬主催者よりも真に理解し、 このJBCを起爆剤として、 売り上げの減少傾向から反転攻勢に出ようとしていた主催者の強い意気込みを感じずにはいられなかった。 またこの冊子には、 出走馬の生産者全員の顔写真まで掲載しており、「生産者あっての競馬」 という私どもの誇りをも体現してくれていた。
 私は岩手の隣県・宮城県の出身だが、 子供の頃から岩手の馬事文化や競馬について目にしたり聞いたりする機会が多かったように思う。
 ご存じのように、 岩手は江戸時代から馬産地として栄え、 その名残が盛岡や民話のふるさと遠野地方に残っている。
 6月上旬に開催される 「チャグチャグ馬コ」 は、 農耕馬にさまざまな美しい衣装を施し、 子供を馬子にして15キロほど練り歩く伝統行事だ。 馬に取り付けた鈴がシャンシャンと鳴るなか、 隊列を成してのんびり行進するさまは本当に美しい。
 日本各地に馬にまつわるお祭りが残っているが、 その多くは合戦風のものや、 馬上から弓を射る流鏑馬とか人馬一体となって急坂を駆け上がるものだったりと、 いわゆる武道の道具として馬が位置づけられているものが少なくない。 それに対してこの 「チャグチャグ馬コ」 の牧歌的な行列は、 かつての農耕馬と人々との、 のどかな田園での暮らしぶりを想起させ、 見る人すべての心を和ませるものとして、 その存在は際立っているのではないだろうか。
 岩手にはまた、 「南部曲がり家」 と呼ばれる独特の農家家屋の建築様式がある。 かやぶき屋根の母屋と馬屋を土間で挟んで直角につないだ農民家屋だが、 人も馬も互いの気配を感じながら一緒に生活するという、 馬を大切にした、 かつての岩手の人々の暮らしを今に伝える貴重な建造物である。
 時代が明治になると、 岩手山麓に小岩井農場が開設されて本格的な馬産も開始された。 種牡馬シアンモアが導入されてカブトヤマなど多数の名馬を輩出し、 名牝ビューチフルドリーマーもこの大農場が輸入している。 この牝系が日本の馬産にしっかりと根付き、 名種牡馬スペシャルウィークをはじめ、 数々の優駿にその血が宿っている。
 これら日本の馬事文化、 そして馬産の一翼を担ってきた歴史の地・岩手から競馬の灯を消してはならない。 つい最近まで地方競馬の優等生といわれ、 専門職スタッフも多数在籍して民間的な経営と称揚された岩手競馬の廃止は、 一地方競馬の消滅にとどまらないほどの影響を、 馬産地を含めた競馬サークル全体に与えるだろう。
 岩手は、 原敬、 米内光政、 鈴木善幸ら多くの宰相を送り出したお国柄だ。 子供の頃、 こんな逸話を聞いたことがある。
「岩手は奥羽山脈と北上山地に囲まれて決して豊かな地ではないが、 山を仰ぎ見て育つうちにいつしか大きな志を抱いて、 果敢に困難に挑戦し、 物事を成し遂げる傑物を輩出する」
 困難を打ち破る強い意志を持つ岩手競馬の関係者の皆さんに、 心からのエールを送りたいと思う。

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