2023年4月25日
令和5年・春
今年も春の訪れが早い。2月は日高門別でもマイナス15度を下回る寒波が10日余り続き、例年以上に厳しい寒さを実感する日が続いたのだが、3月に入ると気候が一変した。ほとんど雪も降ることのない穏やかな日が続き、根雪は3月10日前後に消失。その後も記録的な暖かい日が続いて、気が付けば4月である。近所の牧場の小パドックでは、馬服に身を包んだ当歳馬が、母馬のおっぱいに吸い付いている光景があちらこちらで見られ、放牧地は日に日に緑の度合いを増している。おそらくこの拙稿が出る4月下旬には桜も咲き始めているのではないだろうか。
種馬場は連日大忙しの日が続いている。1日3回の種付けをこなす人気種牡馬もまだ体力は充実しているだろうが、この頃から新馬(今年初めて種付けする牝馬)と再発馬(先の種付けで受胎せず再度種付けする牝馬)が入り交じり、種付頭数がどっと増える。連日の3回使いで、げんなりしてくる種牡馬も現れるのはこのあたりからだ。
2012年、サラブレッド系統種牡馬の種付頭数は合計で1万527頭だった。それが22年は1万2099頭まで数が伸びる。10年間で1572頭、率にして14.9%の増加を記録した。その種付頭数に比例するように国内におけるサラブレッド系統の生産馬頭数も増加の一途で、12年の6786頭が、22年には7780頭となり、994頭の増加で14.6%増。かつてのように生産頭数が1万頭を超えるようなことはないだろうが、好景気も後押しして生産頭数の増加基調が続いている。
最終的な産駒の行き先である競馬場は定員が変わらないわけだから、厩舎は満杯、育成場も満杯となり、馬の入厩はこの4、5年かなり窮屈になってきた。競走馬を引退して生産牧場に戻ってくる牝馬も増加しており、今では預託牧場を探すのも一苦労になっている。
好景気は、種牡馬選択の競争も激化させる。種付料が高騰しているにもかかわらず、人気を集めるのも高額種付料の種牡馬や新進気鋭の新種牡馬たちだ。人気種牡馬への集中度が高まるあまり、供用3、4年目の種牡馬が当初の人気とは打って変わって種付数が減少したり、実績ある種牡馬が業界的には完全に飽きられて全く配合数が伸びなかったりといった例もちらほら出てきている。少し前なら、これらの種牡馬は設定された種付料も割安感があるので、そこそこの数の種付牝馬を集めることができたのだが、今年は前年と比べて極端な落ち込みを見せている馬も多い。ある意味、景気が過熱している証なのだろうか。
産地の景気が回復し始めたのは11年ごろ。1歳市場での売却率が50%を超え、平均価格は前年比80万円増の730万円超を記録した。それが22年は売却率が79.4%と8割に迫る勢いとなり、平均価格は1350万円を超える。20年余り低迷した馬産地の景気は本当にV字回復を成し遂げたのだが、足元ではやや過熱し上振れした景況感が独り歩きし始めている感もある。
この3年あまりコロナ禍の中で、ネットでの発売を軸に大きく成長した地方競馬は、報奨金アップも後押しして馬資源に事欠かなくなった。高知や佐賀など、かつては存続危機が伝えられた競馬場も大きく成績を伸ばし、高知は年間売り上げが1000億円に迫り、佐賀では24年のJBC競走が開催されることが決定した。その一方で好調な伸びを示してきた競馬の売り上げも、ここにきて伸び率が鈍化傾向を示しつつある。コロナ禍で制約を受けていた余暇の過ごし方も、日常を取り戻した今では、以前のように多様化し街は人であふれている。競馬が独り勝ちできる状況ではなくなったが、めいっぱい売り上げを伸ばした勢いが反転するようなことになると、この産地のひずみが表面化しないとも限らない。今の産地のトレンド「イケイケ主義」が過剰に進むことを、一人ぼんやりと不安に思っている。
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