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日高便り

2006年2月1日

変わりゆく日高の風景

業態転換が進むなかで

北海道事務所・遠藤幹

 先日、 久しぶりに浦河まで車を走らせた。 見慣れた牧場の景色が左右に広がっていくうちに、 馬が放牧されていない牧区が数多くあることに気付いた。 2、 3日前にまとまった雪が降ったのだが、 牧区内が馬に踏み荒らされていない新雪の状態のままであるところを見ると、 やはり馬が長期にわたって放牧されていないのだろう。 ある牧場は、 18年前に私が日高に来た当時のままの厩舎や牧柵が、 ペンキを塗り直されることもないまま、 朽ちつつある。 今さらながら、 厳しい経営環境におかれた馬産地の現実を思い知らされた。
 同じ日、 新冠のサラブレッド銀座 (朝日地区) から、 さらに奥へと車を走らせた。 すると今度は、 黒毛和牛を飼っている、 かつてのサラブレッド生産農家が目につくようになる。 子牛に 「馬服」 を着せているのは、 サラブレッドを飼っていたときの習慣なのだろうか。
 門別のある生産者の方は、 今春生まれる当歳馬を最後にサラブレッド生産をやめ、 肉馬生産に転換するつもりだと明かした。 売れ残ったサラブレッドを1歳の暮れに二束三文で処分売りするよりも、 肉馬のほうがはるかに高く売れ、 経費もかからないのだという。
 もちろん、 業態の転換が求められているのは、 馬産地に限ったことではないだろう。 馬産が経済行為である以上、 採算が取れない経営を継続するよりは、 他の畜産や農業に転換し、 経営の立て直しを図ることは理にかなったことでもある。
 現に、 私の住む平取町内陸部の農村地区は、 かつては米作以外に特産物のない寒村であったものが、 地元農協の指導もあって、 トマト、 メロンのハウス栽培を中心とした市場価格の高い野菜、 果物に生産をシフトした結果、 各農家の懐は大きく潤った。 そのお蔭かどうか、 後継者の方々も次々と結婚し、 総坪数で70坪はあろうかという巨大な二世帯住宅を、 皆で競うかのように建てている。
 と言いつつも、 私の仕事は、 サラブレッド生産者の方が主な取引先でもあり、 やはり生産者の方が次々と競走馬生産に見切りをつけていかれるのは正直さびしい限りだ。
 JRA中央競馬会の売り上げダウンはやや下げ止まりつつあるとはいえ、 地方競馬については、 この先も見通しは大変厳しい。 売り上げの減少が報奨金の減額を招き、 ひいては馬主の購買意欲の減退、 馬の売れ行き不振に行き着いてしまうという、 負のスパイラルをいまだに断ち切ることができない。 まだまだ先の見えない馬産地の現状は、 連日氷点下10数度を記録する日高の厳冬期そのものである。
 日高の現状に、 ともすればマイナス思考に陥りそうな気分のなか、 2月の上旬、 門別地区で新規開業したスタリオン施設の展示会が行われた。 大方500人は集まっただろうか、 えりもから胆振まで、 たくさんの生産者の方の顔があった。 幸い天気も良く、 風もない比較的暖かい日でもあり、 みな和やかに種牡馬を見て、 談笑している。
 静内の生産者の方が 「おまえのところの馬、 2頭つけるのだから、 ちゃんと止めてくれよ (受胎させてくれよ)」 と声をかけてきた。 しばらくお会いしないうちに、 別人かと思うくらい白髪が増え、 お痩せになっていたが、 気さくな性格はそのままだった。 一緒に来られた別の生産者の方にも、 ブリーダーズスタリオンの新種牡馬はすごい人気だぞ、 と勧めてくれている。
 私は、 このやや乱暴な当社の種牡馬への期待の言葉で、 「生産者の方のために自分は働き、 うちの種牡馬は、 皆様の期待を一身に背負っているのだ」 と、 自分や会社の存在意義をはっきりと自覚させられたのだった。
 確かに馬産地日高の状況は厳しいし、 この先、 大きく変貌するかも知れない。 しかし、 これら当社の取り組みに期待を寄せる生産者の方々がいらっしゃる限り、 私も頑張るぞと心の奥で誓った。 生産者の方々との触れ合いが、 新たな仕事への取り組みのモチベーションとなっていることに気付かされた、 種牡馬展示会のひとときだった。

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