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日高便り

2008年2月1日

種付シーズン本番を迎えて

サンデーの後継争いはまだ混沌

北海道事務所・遠藤幹

 出産シーズンも本番を迎え、 ディープインパクトの産駒誕生のニュースが一時期マスコミを大いに賑わせていた。 出産のニュースは 「鮮度」 が重要ということもあり、 マスコミの 「夜討ち朝駆け」 に大変な思いをした牧場もあったようだ。 その騒動も収束したが、 個々の生産牧場単位でいえば、 間もなく出産、 種付と慌しい日々が待ち受けていることは例年と変わりがない。

展示会の成否は天候次第?

 馬産地ではこの時期、 種牡馬の展示会が連日のように開催される。 新種牡馬をはじめ、 目当ての種牡馬を一度に観察できる絶好の機会であるだけに、 訪れる生産者の方々の眼差しも真剣だ。 展示する種馬場側も、 いかにより良い状態で種牡馬を披露するかに力を注ぎ、 豪華なパンフレットやさまざまなサービスを用意して種馬場を印象付けて、 1頭でも多くの配合申し込みを獲得するために互いにしのぎを削ることとなる。
 2月 (かつては3月上旬の開催が主流だった) という厳冬期に行う展示会だけに、 お客様の集りはその日の天候次第という面があり、 ときには展示会当日が暴風雪になって最悪の状況で開催せざるを得ないこともある。
 私の勤め先のブリーダーズスタリオンの展示会が、 かつて大変な吹雪に当たってしまったことがある。 お客様は激減したうえ、 馬を見るどころか雪が遮断して前方すら見えない状態になってしまって、 主催者の一員として大変落胆した記憶がある。
 その翌年には、 社台スタリオンの展示会が猛吹雪に遭遇し、 後日あらためて展示会を開催したことがあった。 この日の嵐は猛烈で、 展示会後、 早来から日高へ向かう国道でスリップ事故が多発した。 展示会帰りの私は、 生半可に裏道を知っていただけに、 国道を迂回して車を走らせていたところ、 雪の吹き溜まりに車を突っ込んでしまい、 近所の生産者の方に救出してもらう羽目になってしまった。
 この両種馬場の展示会開催日は、 くしくも同じ2月23日だった。 それ以来、 一部種馬場関係者 (私どもだけ?) ではこの日を厄日として、 展示会開催日にすることを避けている。 やはり競馬は勝負の世界。 ゲンは担いだほうが良い。

配合理論を駆逐したSS

 サンデーサイレンス亡きあと、 その後継種牡馬に種付の主力が移り、 ディープインパクトやアグネスタキオンを筆頭に、 強力な後継種牡馬陣に生産者が目を奪われている。
 その一方で、 サンデーの産駒がいない2006年以降の3歳5大競走の勝ち馬の父を見れば、 オペラハウスの2勝を筆頭に、 エルコンドルパサー、 アドマイヤベガ、 キングヘイロー、 ブライアンズタイム、 タニノギムレット、 ホワイトマズル、 アグネスタキオン、 コジーンが各1勝と多士済々で、 群雄割拠の時代に突入した感があって、 未だ核となるエースは登場していない。 混沌とした種牡馬間競争のなかで、 誰もが想像もしなかったようなダークホースがいきなり浮上するようなことがあるかも知れない。
 サンデーサイレンスの出現は、 交配におけるベストな方法は、 最上の種牡馬に最上の牝馬を掛け合わせる 「ベスト・トゥー・ベスト」 だということをまざまざと生産界に知らしめた。 それまで、 一部の生産者に活用されていたニックス理論、 ドサージュ理論、 8代血統理論などをすべて吹き飛ばしたに等しい。 遺伝の仕組みを考えれば、 父や母の競走 (繁殖) 成績に、 その仔は類似してくるであろうし、 ひいてはその父母が最上位クラスの競走馬であれば、 やはり最上位クラスの産駒の誕生する可能性は高くなるだろう。
 ディープインパクトの母ウインドインハーヘアはドイツの伝統ある重賞競走アラルポカル (G1) の勝ち馬で、 英オークス (G1) 2着の名牝だ。 「ベスト・トゥー・ベスト」 のシンプルな配合パターンの典型である。 ただし競走馬の場合、 生産、 育成、 調教、 そしてレースと、 自身の競走能力を最大限に発揮するためには後天的な要素も多くからみ、 不確実性も高いのが現実でもあるが。
 その点、 私自身の結婚式や身内の葬式を振り返れば、 そこに集った親戚、 縁者が自分の父系であり母系でもあるわけだが、 仮にサラブレッドになぞらえてブラックタイプを作ってみれば、 そのか細さに自分の血統背景がよくわかる。 凡庸な自分にも納得でき、 選択と淘汰の歴史を持つサラブレッドに生まれなくて心底良かったと思うしかない。

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