2025年12月25日
ジャパンカップとJBCと
2025年11月30日。晩秋の澄んだ空気に包まれた東京競馬場は、ジャパンカップのゴールシーンを迎えると、一瞬にして熱気の渦に飲み込まれた。天皇賞・秋を制した3歳馬マスカレードボールと、欧州から参戦したカルティエ賞年度代表馬カランダガンの一騎打ちは、7万7000人の観衆を魅了し、場内の空気を震わせた。世界最高のレーティング130を誇るカランダガンは「欧州馬は日本の高速馬場には適応できない」という長年の通念を打ち破るかのように、2分20秒3の日本レコードで力強く駆け抜けた。バルザローナ騎手のガッツポーズに湧き上がる喝采と歓声。あの瞬間、私自身も久しく味わっていなかった高揚を覚えた。競馬で声を上げることなど滅多にない私だが、胸の奥に感動が湧き上がり、36年前、ホーリックスとオグリキャップが繰り広げた伝説の激闘を思い起こした。
それにしても、時代は変わったと実感する。コロナ禍で中断していた会社主催のジャパンカップ観戦ツアーは昨年ようやく復活したが、久々に訪れた場内でまず驚いたのは、客層の若返りだった。この週末、競馬場では多彩なイベントが催されていた。内馬場では「東京らーめんステークス」と題して9店舗が各自の自慢の味を提供し、正門付近のバラ園前では「ジャパンカップWineガーデン」が開催されていた。若いカップルや職場仲間、熟年夫婦がラーメンを頬張り、ワインを片手に語らう姿は、かつての“鉄火場”の面影とはまるで別世界だ。今回のジャパンカップの売得金は260億814万円と前年を大きく上回ったが、数字以上に人々の表情が輝いていた。馬券の収支を超えて、レースを「体験する」楽しみが確かに広がっていた。
時を少し遡ると、11月3日には「地方競馬の祭典」JBCが、15年ぶりに船橋競馬場で開催された。大規模な改修を経た新しい船橋競馬場は、まさにJBCのための舞台装置として整えられており、レディスクラシック、スプリント、クラシックというカテゴリーの異なる3競走が、訪れたファンに強烈な印象を残した。売得金は83億272万円と1日当たりの船橋競馬の過去最高を更新し、とりわけJBCクラシックは30億4965万円とレース単体としてのJBC史上最高記録を樹立した。家族連れや若いファンが目立つ多様な客層が、その盛り上がりを象徴していた。
JBCの楽しみの一つが、生産者へのインタビューである。レース直後、勝利馬を送り出した生産者がファンの前で言葉を紡ぐ姿には、競馬の源流ともいえる“馬を育てる人々の想い”が宿る。レディスクラシックを制したアンモシエラの生産者・桑田美智代さんは、「まさか2連覇するなんて……。ゴールの瞬間、涙が溢れました。ここまで仕上げてくださった関係者の皆さんに感謝しています」と笑顔で語った。スプリントを制したファーンヒルの生産者・谷岡康成さんは冷静にレースを振り返っていたが、実際にはゴールの瞬間、感極まって涙を流していたという。そしてクラシックを勝ったミッキーファイトの生産者であり、JBC協会会長でもある吉田勝己さんは、「このレースはどうしても勝ちたかったんです。昨日も勝ったんですよ、フォーエバーヤングで(BCクラシックを)。凄いですね」と柔らかに笑った。
今年のJBCのプロモーションビデオは生産者に焦点を当てた「Breeder――それは、親愛なる伴奏者」というテーマで制作された。新冠の生産者が実際に出演し、馬と共に歩む姿を映し出している。生産者はどれだけ努力を重ねても、勝利が約束されるわけではない。勝ち馬は数え切れないほどの挑戦と失敗の末に生まれる。三者三様のインタビューを聞きながら、私は改めて競馬の原点とは何かを考えた。ジャパンカップとJBC。規模こそ異なるが、スポーツとしての緊張感、原点回帰の視点、そして競馬という文化が持つ奥深さという点では、どちらも比類ない魅力を放っていた。
コロナ禍の無観客開催を経て、競馬場には再び多くのファンの笑顔が戻ってきた。あの熱気と活気に触れ、私は心から励まされた。2025年11月の競馬は、単なるスポーツ観戦を超えて、未来へ続く希望を感じさせてくれる時間だった。