2023年8月25日

セレクトセール2023が終了して

北海道事務所・遠藤 幹

　７月10日、11日の２日にわたって開催されたセレクトセールは、空前の数字を残して無事終了した。新型コロナウイルス感染症の取り扱いが５類に変更され、４年ぶりの通常開催となった本セールは、終日熱気に満ちた競り上げが繰り広げられた。２日間の総計で453頭の上場頭数に対し落札頭数が435頭、落札総額は281億4500万円（税別、以下同）、平均価格は6470万円、落札率は96・０％、１億円以上の高額落札馬は63頭に達した。落札頭数こそ上場頭数が前年より16頭減ったため記録更新とはならなかったものの、落札総額、落札率、平均価格、１億円以上の高額馬の頭数のいずれの指標も過去最高だった前年の数字を上回り、世界最大のサラブレッドオークションと断言しても過言ではない数字を叩き出した。
　私は市場運営の一部に携わるスタッフに過ぎないが、この数字にはただただ驚くばかり。購買者の皆様をはじめ、販売者ほか関係者の皆様に心より御礼申し上げる次第です。
　私は契約班に籍を置き、セール開催中は鑑定台隣のブースの中に終日詰めたまま、落札結果や購買者のチェック作業に携わっている。ちょうど目線の高さに目隠し板があるため、会場内の購買者席に向き合っていながら、セールの様子を直接目視できない。しかし、鑑定台やスポッターから飛び交う発声から、白熱したビッドの打ち合いをビシビシと感じる場にいた。
　売買確認書にサインをもらうために、落札直後の購買者の方を女性スタッフと追いかける場面が何度かある。長い競り合いの末に見事お目当ての馬を落札された購買者様は、やや興奮した表情で関係者と固い握手を交わしている。ご家族や馬係の方と一緒に落札馬と記念写真を撮られているお姿は満足感と喜びに満ち溢れていた。
　この数年売り上げが急伸する中で、トップクラスの馬の落札価格は３億円を超えるのが当たり前になった（本年の最高価格は５億2000万円）。今回３億円以上の落札馬は９頭に達し、以下２億円台は17頭、１億円台は37頭と、実に落札馬の約７頭に１頭が１億円以上という突出した高価格のセールになった。トッププライスをけん引する購買者の方々の競り上げが、アンダービッダーの方の次なる価格帯の競り合いにつながり、以下玉突き現象を引き起こして、落札価格と落札率の上昇につながった。新規参入の購買者の方も積極的にセールに参加し、こちらは新しいビッグバイヤーの登場に、そのお名前をスマートフォンで検索することも度々だった。
　トップクラスの生産馬を多数上場する社台グループの成績は凄まじい。300頭中295頭が落札され、落札率は98.3％、落札総額219億9600万円、平均価格7456万円を記録した。一方、社台グループ以外の販売者の成績を見ると、153頭中140頭が落札され、落札率は91.5％、落札総額61億4900万円、平均価格4392万円と、こちらも信じられないほどの好成績を上げた。社台グループ以外の上場馬では壁が厚かった１億円以上の落札馬も６頭誕生した。そのうちの３頭は静内のグランド牧場の上場馬である。
　グランド牧場の会長だった伊藤佳幸さんは本年３月に亡くなった。剛毅で人情に厚く馬産にも全力投球される方だった。牧場の敷地を大きく広げ繁殖牝馬の入れ替えも積極的に行い、自己所有馬を競馬で走らせる一方で、セールで素晴らしい生産馬を上場し、結果を残されていた。代表的な生産馬はスズカマンボ（天皇賞・春）、サンビスタ（チャンピオンズＣ）。まさにこれからという時、60代半ばでのご逝去は大変早すぎるし、ご本人も心残りではなかっただろうか。
　そのグランド牧場の当歳馬バイバイベイビーの2023（牡・父コントレイル）は価格がリザーブから大きく上昇し、本年のセレクトセールでは３位タイとなる３億3000万円で落札された。そのほか２頭が１億4500万円、１億2500万円で落札されるという素晴らしい販売成績を残した。同一市場で日高の同一牧場の生産馬が３頭も１億円以上で取引されたことは初めての出来事だ。ブースにいた私はこの会場に伊藤さんがおられ、上場馬を後押しされているように感じた。鑑定台の裏手そばにある上場者ブースに控えていた奥様は泣いていらしたと聞く。牧場の努力そして伊藤さんの思いが大きく実った瞬間だった。ご購買者様に改めて感謝申し上げるとともに、これら取引馬の競馬場での活躍を祈りたい。