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日高便り

2020年2月25日

種付けシーズン本番を控えて

北海道事務所・遠藤 幹

 まぎれもなく今年は暖冬だ。1月も末というのに日高町の積雪は0センチ。最低気温もマイナス10度を下回るような日はほとんどない。但し、そうはいっても気温が本州ほど高いわけではないので、雪のない放牧地は、ガチガチに凍り付いているところも多く、馬の蹄にとっては宜しくない状況ではある。蹄の形状もあって、凍った放牧地では足を滑らせやすく、また硬い地面は蹄の裏を刺激する。私どもの種馬場でも軽い挫跖になった種牡馬もおり、やはりその季節なりの適度な寒さや降雪があった方が、馬にとっても良いのだ。
 そんな中でも、年明けとともに仔馬の誕生話をちらほら耳にするようになった。暖冬とはいえ、寒い時期なりに牧場側でも仔馬の管理には神経を使う。順調な仔馬の成長を願いながら、春の訪れを待ちわびる。今春誕生する産駒がラストクロップになるディープインパクトの当歳馬誕生の話もいくつか漏れ聞こえてくるが、数少ない産駒たちが順調に成長してほしいと願うばかりだ。

 この時期の種馬場では、新種牡馬は「種付けの練習」を行う。排卵促進剤を注射し発情を起こさせ種付け適期になった牝馬と、スタッフに誘導された「フレッシュマン」がお見合いをするのだ。初回のお見合いで、まるで経験馬かと思うような種付けを披露する馬も中にはいるが、たいていは数日かけて自分の仕事を会得する。
 数年前の出来事だが、この試験種付けで、ちょっとした珍事が起きた。
 馬の名誉のために名前をAとしておく。Aは用意された牝馬を前に、数日間の当て馬で多少のやる気は見せていたのだが、当て馬を始めて5日経ったあたりから日に日に気持ちは萎えていく一方となった。10日目には種付場に入場して牝馬と対面することが苦痛になったのか、ほとんど無反応に近くなった。当然スタッフは様々な刺激をAに与えて、彼のやる気を促すのだが、効果はない。牝馬のそばでぼうっとしている様を見て、私どもはそれなりの長期戦を覚悟したのだった。
 そこで当方が取った次なる策は、種付け牝馬を替えてみること。現在の牝馬は促進剤による発情馬であり、自然の発情ではない。幸いなことに、乳母を貸し出す牧場にお願いし、出産後の初回発情の馬と、上がり馬ながら発情の良い馬の2頭を、いっぺんに借りることができた。
 牝馬を借り受けたその日の午前、とねっ仔のついた経験馬を当てたところ、むくむくとAの気持ちが盛り上がってきた。今までと明らかに感じが違う。スタッフともども確かな手ごたえを感じ始めたのだが、今度はAが一緒にやってきた仔馬に気を取られ、仔馬が鳴くたびにそちらを見つめてしまうのだ。せっかく盛り上がった気分が、またもや気もそぞろとなり、この回は終了したのだが……。
 午後に別馬で再チャレンジ。この上がり馬は体高が低く毛足の長い青毛馬で、サラブレッド種ではない。Aはこの馬を見た瞬間にスイッチが入った。大きく嘶くとともに、今まで全く見せなかった雄々しさをむき出しにして、まるで違う馬に変身したのだ。この豹変ぶりには私どもも驚いた。Aは果敢に牝馬に挑みかかり、無事自分の仕事を会得し、活力ある大量の精子もしっかり確認することができた。これには私も現場スタッフも顔をほころばせた。私どもにはわからない見た目の印象や匂い、その他彼を興奮させる何かが、この牝馬にあったとしか考えられない。幸いにして先に借り受けていた牝馬ともしっかり試験交配ができ、ほかの牝馬でもしっかり仕事をこなせることを示してくれたのだった。かつて初回種付けに1カ月以上を要した種牡馬もおり、Aより大変な労力を要した馬も多いのだが、牝馬を替えただけで劇的に変わった馬はAが初めて。馬の生理にもまだまだ謎が多いことを、改めて知らされた懐かしい思い出だ。
 2月に入れば、各地で種牡馬展示会が開催され、生産者をはじめ関係者に種牡馬たちがお披露目される。それとほぼ同時に種付けシーズンもスタートし、いよいよ種馬場にとって忙しい日々が始まるのだ。

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