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日高便り

2024年10月25日

好調な産地経済と不動産投資

北海道事務所・遠藤 幹

 日高軽種馬農協主催のセプテンバーセールも、盛況裡に終了した。3日間で534頭が上場され、うち429頭が売却された。売却率は80.3%、平均価格は526万円を記録。平均価格こそ昨年を下回ったが、売却率の8割超えは、秋市場の性格を考えると大変素晴らしい数字と言えるのではないだろうか。日本競走馬協会主催のセレクトセールは言うまでもなく、日高軽種馬農協主催のセールも、ここまで前年の成績を大きく落とすことなく、好調な売り上げや売却率を保っている。市場参加者の強烈な購買意欲に支えられ、馬づくりに真剣に取り組む生産者の努力、市場主催者の販売促進のための不断の取り組みなどが相まって、好調な市場取引が続いている。
 産地景気が底を打ち、上昇機運に乗ってから10年以上も経つだろうか。この10年の市場の成績を2014年と23年の1歳市場を例に眺めてみたい。
 セールの上場頭数は14年が2395頭、23年が2924頭で529頭増。売却頭数は14年が1526頭、23年が2330頭で804頭増。売却率は14年が63.7%、23年が79.7%で16.0ポイント増。売却馬の平均価格は14年が835万円、23年が1414万円で579万円増といった具合で、この間ほぼ右肩上がりの状況が続く。総売り上げも14年が127億4350万円、23年が329億5292万円と、約2.6倍に増えているのだ。年率換算でこの10年、約11.1%の成長を続けた計算になる。驚嘆してしまう数字の伸びである。
 さらに遡って市場の歴史を眺めると、市場成績から見える産地景気の大底は02~05年にかけて。市場での売却率は25~30%、売却馬の平均価格は500万~550万円、総売り上げで33億~38億円程度に収束していた。その後一時持ち直した時期もあったが、08年のリーマンショックに端を発した世界同時不況の局面では、産地経済は再び大きく傷ついた。翌09年に開催されたセレクトセールですら、当歳市場の売却率は60%半ばまで低下し、1歳市場の平均価格も2300万円付近まで落ち込んだ。主取り馬を追いかける仲立ち業者(セール会場内では仲介業務は禁止行為である)がセールの会場に出現したのもこの年だった。
 第2次安倍晋三内閣が打ち出した経済活性化策「アベノミクス」が発表されたのは13年6月。アベノミクス――量的金融緩和策、積極財政政策、法人税の引き下げ、規制緩和――の施策効果によって、軽種馬市場へ数多くの新規購買者が参入し、市場成績が大きく向上したのは間違いないだろう。アベノミクスに対し、大企業や高所得者層優遇策で、当初期待されていたトリクルダウン効果(大企業や高所得者が富むような経済政策を実施すれば、投資や消費が活発になり、より広い層にも恩恵が及ぶとする考え方)は起きなかったと批判する向きもあったが、馬産地では間違いなくトリクルダウン効果があったと思う。
 ここから10年が経過し現在に至る。好調な馬券の売り上げに支えられ、新規購買者の参入も相次ぐ良好な経済環境の中で、この日高町で顕著になっていることがある。それは不動産投資――牧場本体や農地の取引の活発化と既存の牧場の面積の拡大――である。
 会社(日高町富川)近辺を見回しても、ブリーダーズ・スタリオン・ステーション奥の平取町川向地区では、いくつもの牧場が山林を切り開き放牧地を拡張し厩舎を建設している。また既存の牧場を買収し新たに分場を開設した牧場もある。なだらかな丘陵が広がるこの地域ではノーザンファーム、下河辺牧場、坂東牧場、清水牧場、三嶋牧場が現在の川向地区開墾のフロントランナーになっている。
 一方、日高自動車道を富川から厚賀方面に車を走らせれば、左手に社台ファームの真新しい厩舎と緑のまばゆい放牧地が望める。さらに車を進めると、右手に牧柵を巻いた真新しい放牧地が見える。こちらはリョーケンファームの新規放牧地とのことだ。
 10年で繁殖牝馬を1頭以上繋養する生産者数は14年の915戸が23年には761戸に減少した。一方でそれらの廃業した牧場を新規に取得する大手牧場が存在する。繁殖牝馬繋養頭数31頭以上の生産者は23年には59戸(14年は39戸)に増加した。好況が続く生産地ではあるが、さらなる成長と成功の果実を得るための生産基盤の整備――経営規模の拡大――が続いているのだ。
 ブリーダーズ・スタリオン・ステーションの敷地前の町道の向こう側には、なだらかな傾斜を持った乳牛農家の共同採草地がある。広さは30~40ヘクタールぐらいあろうか。この数年牧草刈りが行われなくなり、牧草が伸び放題となってやや荒れた風情を漂わせていたのだが、今年に入り牧草を刈り取った後に、除草剤を散布して草を枯らす処置が行われた。この後は草枯れの採草地を耕運し牧草の種をまいて圃場を作るのだろうか。つまり新たな牧場が開設される準備が始まっているようなのだ。灯台下暗し。 ※文中の金額は税込。

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