2024年12月25日
競走馬の滞留と生産頭数の増加
凍てつく寒さの中で施行された11月7日の道営記念。2024年の道営競馬を大いに盛り上げたベルピットが、昨年の落馬競走中止の無念を晴らして見事優勝した。今年は負けなしの6戦6勝。道営の年度代表馬の座も確実にしたことだろう。
道営競馬の開催が終了すると他地区へ転籍する馬がいる一方で、下級条件馬などはネットオークションや庭先で売りに出されることとなる。私ども(株)サラブレッド・ブリーダーズ・クラブの社員の中に馬匹売買に精通した社員がおり、ここから彼の本領発揮という場面なのだが、今年はいつもとは勝手が違った。馬のトレードがなかなか成立しないのである。彼だけの話ではない。活況を呈しているはずのネットオークションも、低価格での出品にもかかわらず主取りが相次いだというのだ。
その理由は「馬の行き先がない!」ということらしい。仮にお手頃な価格でお目当ての馬を手に入れたとしても、そこから他の競馬場の厩舎に移そうにも、その移動先の厩舎の馬房がいっぱいで、調教師の先生も首を縦に振れない状態なのだ。ひいては現役馬のトレードが不活発になり、厩舎に馬が滞留してしまうこととなる。門別競馬場に馬が滞留することとなれば、当然ながら競馬場入厩予定馬を預かっている近隣の育成牧場も、馬が滞留するという玉突き現象が起きてくる。「この先、岩手や金沢競馬が冬季休業する際に、北海道と同様の事態が起こるのではないでしょうか?」と当社社員は危惧している。
生産地を見渡せば今年も好景気に沸き、日本競走馬協会も日高軽種馬農協も各々主催する市場では、過去最高の売却総額と売却率を記録している。新しい購買者の方々も市場に続々と参入し、とにかく馬は売れに売れている。それらの馬の行き先は上級馬から順に中央、そして地方へと自然と振り分けられていくのだろうが、最終的な出口=地方競馬の転厩時の滞留は、馬の流通にちょっとした暗い影を投げかけているように思える。
その「馬の移動がままならない」ことの裏返しにあるのが、生産頭数の増加である。23年の生産頭数は7798頭。約10年前、14年の6904頭と比較し894頭(12.9%)も増加した。馬主の旺盛な購買意欲に支えられ、繁殖牝馬と生産頭数の増加傾向はこの7、8年顕著になっている。
生産者数に目を向けると、中小の生産者では後継者不足からの廃業は変わらず続いており、あの名門牧場が……といったところまでも閉鎖あるいは売却といったことが日々起きている。その一方で大手牧場は依然として拡大傾向にあり、馬主層が生産事業に乗り出すケースも枚挙にいとまがない。生産頭数の増加、好調な市場取引、競馬場への入厩圧力の増大と競走馬の滞留……。中央、地方を合わせても当然ながら入厩馬房には上限がある。今思えば、2000年代初頭に相次いだ地方競馬の廃止が大変痛いのだが、入厩キャパシティに限りがある中での生産数の膨張は、どこまで既存の受け皿で対応できるのかが問われているような気がする。
ちょうど今の時期であるが、各種馬場の種付料の発表が相次いでいる。プライスリーダーの社台スタリオンステーションではイクイノックス、キズナ、キタサンブラックの3強が揃いの2000万円(受胎確認後支払。以下同じ)に設定された。この頂点の3頭と、1800万円のコントレイルを含めた9頭の種牡馬が種付料1000万円以上に設定された(前年度は7頭)。その最上級価格帯に次ぐ存在として、日高地区ではシニスターミニスター(800万円)を筆頭にリアルスティール、シルバーステート、ヘニーヒューズの3頭が500万円に設定された。
これら上級種牡馬の種付料の上昇傾向が続く中で、高額種牡馬への種付けの集中がより一層進むことになるだろう。その一方で中堅以下の種牡馬では現状維持や値下げされるケースも数多く見られ、種牡馬の二極化がより鮮明になっている。
これら種牡馬の選定を出発点として、25年も生産事業が始まるのだろうが、生産馬の取引が活発な一方で、相矛盾するよう現役競走馬の滞留が生じており、このバランスの悪さに私は一抹の不安を感じるのだが、どうなのだろうか。