2024年4月25日
熾烈を極める種牡馬ビジネス
4月1日、種付けシーズン真っ盛り。日高の国道や自動車道では、種馬場通いの馬運車の往来が目に付く。私の勤務先のブリーダーズ・スタリオン・ステーションでも3月30日に総種付数が500を超えた。嬉しいことに対前年比で総数は80あまり増加しており、まずは順調にシーズン序盤を終えたように思う。 ※平均種付料は、受胎条件と出生条件の2種類の種付料がある場合は受胎条件の種付料を、種付料がプライベートの場合は実際の取引価格をもとに算出。
例年種付けの申し込みは、11月中旬の社台スタリオンステーション(以下、社台SS)の種付料発表から一気に加速する。プライスリーダーのアナウンスは、産地に瞬く間に広がり、社台SSに直接申し込みをされる馬主や生産者が多数を占める一方で、私どものような種牡馬商社にも仲介を依頼する電話が押し寄せ、その後数日間はてんてこ舞いとなる。
日高地区の種牡馬商社で管理している種牡馬の種付料は、この最大手の動きを待ってからの検討となることも多い。というのも、圧倒的な集客力を誇る社台SSブランド種牡馬の種付料を見定め、自社事務局の種牡馬との距離感を測りつつ種付料案を作成し、種牡馬オーナーやシンジケートの了解を得るのがこの数年の流れとなっているからだ。一流デパートの高級品には対抗できないが、お手頃価格でお得感のある量販スーパーの商品のような立ち位置に日高の種牡馬はある。
それでも、この10年近く続く産地の好況もあって、種付料もじわじわ上昇が続いている。ブリーダーズ・スタリオン・ステーションの繋養種牡馬を例に、2018年以降の公示種付料の平均価格(加重平均)を調査したのが下の表だ。
年 種牡馬数 平均種付料 種付料の価格帯 最高価格馬 2018 20頭 79万円 20万円~250万円 ブラックタイド 2019 19頭 85万円 20万円~250万円 ブラックタイド 2020 20頭 79万円 20万円~250万円 リオンディーズ 2021 18頭 108万円 20万円~300万円 リオンディーズ 2022 19頭 119万円 20万円~400万円 リオンディーズ 2023 19頭 128万円 20万円~400万円 リオンディーズ 2024 20頭 142万円 20万円~400万円 リオンディーズ
種牡馬業界にフォローの風が吹いているようにも見えるが、ことはそう単純ではない。最近特に感じていることだが、新種牡馬が増えてそれらが一様に人気を集める一方で、既存の種牡馬、特に供用3、4年目の馬や種牡馬成績が出始めた馬は、極端な種付数減少に見舞われているように思える。これらの種牡馬の種付け権利の申し込みや問い合わせがめっきり減少し、シンジケートの種付け権利の売り物がだぶついているのが近年目立ってきた。目の前の新人君は大人気なのだが、フレッシュさに欠けた入社年次が少し経った社員さんの人気が今一つといった感じか。
日本国内の入厩できる馬房数から考えても、23年現在の種付け繁殖牝馬1万650頭、生産頭数7796頭という数字は一つの限界点に到達している。パイの大きさが限られ、その食い合いが続く種牡馬ビジネスは本当に熾烈を極めている。
今年の種付けで象徴的なのは、人気種牡馬の予約を確実にするにあたって、その種馬場の別の馬の種付けも予約することを条件にしている種馬場が、一段と存在感を増したことだろう。1頭の超人気種馬で2頭分の繁殖牝馬を集めようとする「囲い込み」作戦である。同一オーナーが所有する種牡馬を複数頭繋養しているからこそなせる業で、オーナーが違う種牡馬、あるいは構成員の違うシンジケート所有馬を管理している私どもなど種牡馬商社は到底まねできない大技である。
このままでは繁殖牝馬を集めることができないと、今まで種牡馬商社が作成する種付け権利情報に種付料を掲載していなかった種牡馬団体が、団体所有馬の種付料を掲載するよう各社に要請したと聞く。待ちの姿勢ではじり貧。1頭でも多くの種付け牝馬を集めるべく各社の努力が続く。
「種牡馬を制する者が生産を制す」。この格言は真実だと思う。だからこそ可能性を求めて種付け牝馬を多数集めるべく種牡馬商社は営業に精を出し、はたまたシーズンオフには有望種牡馬を何とか獲得しようと懸命になる。その盛んな活動が、ひいては日本生産馬の質を高め、強い馬づくりを進める一翼を担っていると信じ、商社間の種牡馬ビジネスは続いている。