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馬産地往来

2024年2月22日

懸念される国内G1の空洞化

後藤 正俊

 2023年スポーツ界の最大のニュースといえば、米・メジャーリーグベースボールの大谷翔平選手がドジャースと10年7億ドル(約1020億円)で契約したことだろう。そんなすごい選手を日本が生み出したこと、日本ハムファイターズ在籍当時は間近で応援できたこと、同じ時代を過ごせていることに感激するばかりだ。その大谷選手は別格として、山本由伸投手はドジャースと12年3億2500万ドル(約470億円)、今永昇太投手はカブスと4年5300万ドル(約75億円)、松井裕樹投手はパドレスと5年2800万ドル(約40億円)という大型契約をした。日本プロ野球選手会が発表した23年シーズンの年俸調査結果によると、12球団の支配下登録714選手の平均年俸は4468万円(出来高分を除く。外国人選手や育成選手は含まれない)なので、いずれも桁違いの金額となっている。今後も佐々木朗希投手、村上宗隆内野手、山下舜平大投手など日本球団からのメジャー入りが続きそうだ。
 これだけ日本のトップ選手が米国に流失してしまうと日本のプロ野球がスター不在により人気に影を落とすのではないかと心配になる。それは野球だけでなく、サッカーの一流選手の多くは欧州のクラブチームに所属するのが当たり前になっているし、ゴルフ、バスケットボール、バレーボールなどでも似たような構図がある。選手にとってはより高いレベルでプレーすることが成長につながるし、金銭的なメリットがある場合も多いが、その分、国内のプロリーグ・ツアーが空洞化し、観客動員やグッズ売り上げなどに影響が出てくる。国内の試合の中継なども少なくなっている。国際化とはそういうものだが、日本のプロスポーツ界にとっては大きな課題である。
 いきなり競馬とはかけ離れた話題から入ったが、似たような状況は競馬の世界でも起こりつつある。23年はサウジCをパンサラッサ、ドバイワールドCをウシュバテソーロが制し、BCクラシックでデルマソトガケが2着と好走。これまでは苦戦が多かった海外のダート戦でも日本調教馬が大活躍した。デルマソトガケは年間を通してすべて海外レースへの出走となった。芝ではイクイノックスがドバイシーマクラシックを圧勝し、オオバンブルマイが1着賞金525万豪ドル(約5億円)の豪州・ゴールデンイーグルを制した。日本以上の高額賞金レースで好勝負になることが判れば、今後はさらに海外遠征馬が増加することになるだろう。
 実際に、2月24日のサウジCにはウシュバテソーロ、デルマソトガケ、レモンポップなど15頭が予備登録をしており、どの馬が出走するのかは執筆時点では不明だが、日本のダート界のトップホースが2月18日のフェブラリーSに揃って姿を見せない可能性もある。同様に3月30日のドバイワールドCデーのドバイターフやドバイシーマクラシックにもドウデュース、リバティアイランド、スターズオンアース、ジャスティンパレス、シャフリヤール、ブレイディヴェーグ、プログノーシスら芝のトップホースが参戦する可能性があり、3月31日の大阪杯がかなり手薄なメンバーになってしまう心配がある。
 JRAでは日本馬が出走する海外G1レースの馬券をネット販売しているが、主催者に支払う手数料がありJRAの利益は国内レースよりも少なくなるし、売り上げ自体も国内G1よりはかなり少ない。日本馬の海外での活躍によりファンは盛り上がるので、長い目で見れば競馬人気向上のためには仕方がないとも言えるが、フェブラリーS、大阪杯のレースレーティングはG1を維持していくのが難しくなるかもしれないし、年間売り上げが下がればそれだけ来年以降の賞金にも影響が出ることになる。
 本来であれば競馬評論家として代案を提示しなければならないのだが、この問題はなかなか妙案が浮かばない。大阪杯やフェブラリーSの日程変更も考えられなくもないが、日本競馬の核となるG1レースの日程を、海外の事情に合わせて変えてしまうことには抵抗がある。ドバイや香港の日程にしてもいつ変更されるか判らない。あまりにも日本馬の活躍が続くようだと出走頭数の制限などが厳しくなることもあり得る。賞金の増額も考えられるが、レースレーティングが下がりそうなレースの賞金を上げることは本質に逆行している。
 できるとしたらボーナスだろうか。フェブラリーSと川崎記念、大阪杯と宝塚記念を連勝した馬には数億円規模のボーナスを提供すれば多少の歯止めにはなるのかもしれないが、ファンの共感はあまり得られず「内輪ウケ」のようにも思える。将来の種牡馬入りを考えた場合「父(母)子同一G1制覇でボーナス」という手も考えられるが、フェブラリーSと大阪杯だけというのは公平性に欠くし、即効果はなさそうだ。効果は目立たなくてもできることとしては、海外競馬の馬券発売時にJRAホームページに掲載している出馬表をより見やすいものにして、海外レースの全成績や映像を閲覧できるようにすることで、海外レースも含めた競馬人気をより高めていくことなのかもしれない。

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