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馬産地往来

2014年8月25日

ファハド殿下が本格参入

加速するセレクトセールの国際化

後藤正俊

 30年間以上も競馬記者ばかりを続けているので、新聞記者といっても他の分野については恥ずかしながら知識が浅い。馬と厩舎関係者の名前を覚え、親交を深め、ある程度の相馬眼と馬券的なセンスを身に着けておけば、競馬記者の仕事にはそれほど大きな支障がなかったものだ。だがセレクトセール取材を17年間も続けていると、語学も含め、政治経済・国際問題をもっと勉強しなくてはならないという強迫観念に襲われることがある。今年のセレクトセールがまさにその象徴だった。
 セール最高価格落札馬は、1歳セール2億6000万円の「リッスンの2013」(牡、父ディープインパクト)で、同馬を落札したデヴィッド・レッドヴァース氏はカタールの王族、ファハド・アル・サーニ殿下の代理人を務めていた。同氏は2日間で計9頭を落札し、総額8億7000万円で最多金額購買者となった。これまでも外国人購買者が多数参戦するのがセレクトセールの大きな特徴のひとつではあったが、セール最高価格馬が外国人購買者というのは01年にモハメド殿下の顧問だったジョン・ファーガソン氏が落札した「ロッタレースの2001」以来。しかも、そのファーガソン氏に続いて2例目となる外国人による最多金額購買とあっては、突っ込んだ取材も必要になってくる。
 ファハド殿下はJRAの非国内居住外国人馬主の登録を行っており、昨年9000万円で落札したキングパール(牡2歳、父キングカメハメハ、母ピンクパピヨン=栗東・中内田厩舎)などとともに、今回落札した馬たちも日本でデビューさせる方針を明らかにした。これまでセレクトセールでの外国人購買者による高額落札馬は、大半が海外に輸出されてデビューしている。「落札後」についての取材は、日本の競馬記者としてはそれほど重要な事案ではなかったのだが、日本デビューするとなれば話は別。レッドヴァース氏への取材も、単にセールに関することだけではなく、レースに直結する部分も深く聞き出さなくてはならなかったのだが、そこでも語学力が大きな足かせとなった。
 語学だけではない。世界の政治・経済についても、ある程度の知識は必要となってくる。例えばアラブ首長国連邦のドバイと、カタールは、同じ産油国ではあっても実際にはどのような関係にあるのか、連邦結成時のいきさつなど歴史から勉強し、現在の関係に至るまでしっかり把握しておかなければ、下手な質問はできない。カタールについての知識はサッカーの「ドーハの悲劇」と、競馬は見習い騎手戦が開催されていて国分優作騎手と嶋田純次騎手が出場したことがある程度しか知らない。これでは記者としてかなりマズイ。スマホで調べてもとても間に合わない状況だった。
 しかもファハド殿下は購買者としてだけではなく、上場者としてもセレクトセールに関わっていた。当歳セール牝馬最高価格の9600万円で落札された「グッドウッドマーチの2014」(父フランケル)は、14戦14勝の怪物フランケルの初年度産駒として大きな注目を集めていたが、その所有者は「カタールブラッドストック社」。実質的にはファハド殿下からの上場だった。「持ち込み」で日本で出産させて、セレクトセールで売却する形となったわけだが、レッドヴァース氏は「市場での価格がわかったし、金額には満足しているが、本当は売りたくなかった」とコメント。これだけではファハド殿下の真意はまったく判らなかった。ここでも語学力が不足していた。
 セレクトセールは今年も盛況だった。2日間トータルで125億7505万円の取引総額となり、昨年の117億6470万円を更新して過去最高額を記録した。毎年のように取引額を拡大している要因として、取引の国際化が大きな部分を占めていることは、今年の結果を振り返っても容易に想像できる。ファハド殿下の本格参入は、今後さらに多くの外国人バイヤーが参入するきっかけになるだろうし、ダーレー・ジャパンやパカパカファームだけでなく上場側にも外国資本が本格参入してくる可能性がある。セレクトセールはいずれ、キーンランド、ニューマーケット、タタソールズセールのように、世界中からバイヤー、セラー、サプライヤーが集まるセールになっていくことだろう。そのセレクトセールの成長に負けないように、記者としての資質を高めていかなければならないことを痛感した2日間だった。

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