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馬産地往来

2015年6月24日

「不敗馬」への期待感

後藤 正俊

 今年の桜花賞にはルージュバック、キャットコイン、クイーンズリングの3頭、皐月賞にはキタサンブラック、サトノクラウンと2頭の不敗馬が出走したことで、レース前は大きな盛り上がりを見せた。2歳重賞が増加しクラシックへ向かう路線が多様化し、有力馬によるトライアルでの直接対決が減少したことが不敗馬が多くなった要因だが、たとえキャリアが3~4戦程度であっても「不敗馬」という言葉には胸ときめく響きがある。そして、その不敗馬たちがいずれも敗れたことで、不敗であり続けることの難しさを改めて感じることができた。「不敗」という言葉には、無限の可能性、神秘性が感じられるものだ。
 世界競馬の不敗記録はキンツェムの54戦が知られているが、競馬のレベル、時代背景、地域などを考慮に入れれば、ブラックキャビアの25戦、リボー、オーモンドの16戦なども同等の価値がある記録と言えるのかもしれない。最近ではフランケルの14戦が大きな話題になった。
 日本競馬では、アラブのホウリンが1963~64年に南関東で16戦、サンデーサイレンス産駒のツルマルサンデーが荒尾、佐賀で15戦の記録があり、中央(国営)競馬に限定するとその創成期にクリフジの11戦、トキノミノルの10戦などがあったが、これらの馬の連勝街道を生で見たことがある競馬ファンは少ないことだろう。
 私自身が実際に見た馬で、最初に「不敗」のイメージが強かったのはキタノダイオーだった。デビューから3連勝で函館3歳S、北海道3歳Sを制覇。そのうち2戦がレコード勝ち。その後に骨折して2年間近い休養を余儀なくされたが、無事だったらマーチス、アサカオー、タケシバオーの3強対決で沸いた68年3冠は、違った光景になっていたかもしれない。復帰後は条件戦を4連勝して、通算成績は7戦全勝。「サラ系」という冠が付くことで雑草のイメージがあっただけに、なおさら「不敗」とのイメージのギャップが印象的だった。種牡馬としても愛知杯勝ち馬ハードラーク、東京障害特別を勝ったサンケイダイヤ、道営で初の3冠馬となったトヨクラダイオーなどを輩出。サラ系でありながらこれだけ種牡馬として成功できたのは「不敗」という看板が影響したものだと考えられる。
 種牡馬が成功するためには能力はもちろんだが、目立つ「看板」によって多頭数と交配するチャンスを得ることも必要になる。「負けていない」ことは生産者、馬主を魅了する看板にはもってこいなのだ。そのため種牡馬として大成功を収めた不敗馬は数多くいる。
 その代表格としてマルゼンスキーが挙げられる。8戦全勝で2着馬との着差合計は約61馬身にも及んだ。持ち込み馬に対しての出走制限があった時代でクラシック出走が叶わず、1年先輩のテンポイント、トウショウボーイとの夢の対決もとうとう実現しなかったが、決してハイレベルな相手とのレースではなくても1度も負けなかったことは、生産者の想像を無限大に膨らませ、種牡馬として大成功を収める要因となった。
 同様のことは4戦4勝のフジキセキ、アグネスタキオンにも言えるだろう。サンデーサイレンス系種牡馬があふれている馬産地では、G1タイトルだけでサバイバル競争を勝ち抜いていくことは難しい。フジキセキの場合はサンデーサイレンス初年度産駒で、しかも3歳からの種牡馬入りだったため「最初の2世種牡馬」、アグネスタキオンには「全兄がダービー馬」という別の看板もあったが、不敗馬だったことも大成功の要因だったことは間違いない。
 不敗の恩恵を最も受けたのはサクラロータリーかもしれない。新馬~りんどう賞~府中3歳Sと3連勝。りんどう賞ではメリーナイス、府中3歳Sではマティリアルを破っているのだから実力は確かだが、重賞勝ちはないまま故障で引退した。それでも種牡馬入り2年目の89年には104頭と交配して、最多交配種牡馬となった。産駒からJRA重賞勝ち馬は出せなかったものの、生産界にその足跡を残した。
 今年もまた不敗馬は少なくなってきた。日本競馬のレベルが高まるにしたがって、不敗を続けることは一層難しいものになっていることだろう。シンボリルドルフも、ディープインパクトも、意外な敗れ方をしてしまうのが競馬である。それでもいつかはとんでもない能力を持ち、不敗を続けていく馬が登場してくれることを、ファンは期待している。今年の2歳馬たちにそんな素材が隠れているのではないかと思うと、6月からスタートした2歳戦への興味は尽きない。

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