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馬産地往来

2015年10月23日

北海道シリーズの見直しを

後藤 正俊

 今年の北海道シリーズが9月6日で終了した。函館、札幌ともに12日間で計24日間。まだ残暑が厳しい季節なのに、馬たちは涼しい北海道から美浦、栗東へと帰って行った。
 かつては6月から9月までの約4カ月間、函館、札幌とも16日間、計32日間の開催が長く続いていたことを考えると、現在は約1カ月間短縮されている。札幌開催は、スタンドをリニューアルオープンした昨年度は14日間の開催だったが、すぐに12日間に減ってしまった。せっかくの美しいスタンド、まだほとんど荒れていない緑の芝コースを見ていると、もったいない気持ちが溢れてくる。
 函館はいかにもローカルらしい情緒豊かな競馬場だ。スタンドから海が望め、湯の川温泉街に隣接し馬も人も温泉に浸れる。寿司や海鮮料理は驚くほど新鮮で安く、競馬場前まではチンチン電車が走っている。地方の衰退は全国的な問題で、かつては大漁業基地として栄えていた函館も年々活気が失われつつある。煌びやかなネオンに包まれていた松風町・大門、五稜郭の繁華街も、人通りがないシャッター通りと化している。それだけに「競馬がやってくる」2カ月間は函館市民にとってもお祭り期間だったが、1カ月半に短縮されたことは経済面でも街の活気という面でも深刻な影響を与えている。
 JRAが売り上げを考えて4大本場開催を増加させるのは、経営面から考えれば当然の策とも言える。JRAの売り上げはこれらの施策により3年連続で増加している。それでも1997年に4兆円だったことを考えると6割程度に低迷しており、その影響は馬産地をはじめ多方面に出ている。更なる売り上げ増加は競馬関係者全体にとっても命題だ。
 一方で日本全体を考えれば、いま地方創生が叫ばれている。北海道も全ての市町村が少子高齢化、過疎化に直面しており、様々な振興策を模索しているものの将来展望は非常に厳しい。JRAの北海道開催が以前のようにあと1カ月間延長されれば、約千人規模の関係者がそれだけ北海道に滞在し、牧場へ足を運ぶ機会も増えるだけに、札幌、函館だけでなく胆振・日高の各市町へも経済効果が期待できる。これほど明確な地方創生策は他にはなかなかない。農水省が監督する特殊法人であるJRAにとっても、国の施策に逆行する流れは望ましくないはずだ。
 北海道開催を延長し、しかも売り上げを伸ばす策があればベストで「札幌記念をG1に」という声も聞かれるが、すでに芝G1は飽和状態でこれ以上の増設はファンを食傷気分にさせる恐れがある。芝中距離路線のローテーションを考えても名前だけのG1になりかねない。「ホッカイドウ競馬を札幌で」という案もあるが、もし賃貸料を無料にしたとしても、いまでもギリギリの経費で開催しているホッカイドウ競馬が輸送経費を捻出できるまで売り上げを伸ばすことは難しい。
 そこで大胆な一つの提案をしてみたい。札幌競馬場の芝コースをオールウェザー(AW)化する案だ。日本競馬の最大目標は凱旋門賞制覇だと言う関係者は多いし、ファンも凱旋門賞への思い入れは強い。その凱旋門賞を開催しているロンシャン競馬場は、今年の開催終了後にAW化する大改修工事が行われる。AWはメイダン、キーンランド、サンタアニタが撤退するなど、その普及に疑問視する声が多いのも事実だが、ロンシャン競馬場での導入は日本競馬にとっても無視できない改革となる。当初は下級条件レースでの使用が予定されているようだが、すでにシャンティイ競馬場でもAWが設置されており、いずれは凱旋門賞をはじめとした主要重賞がAWで開催される可能性もゼロではないはず。フランスの2大競馬場で導入されれば、ヨーロッパ全体に広がっていくかもしれない。
 札幌記念が日本での欧州遠征トライアルとなれば超一流馬の出走が見込めるし、AWでの調教を好む厩舎が長期滞在することも考えられる。故障率の低さが実証されれば、2歳戦を札幌からスタートさせたいと考える陣営も多くなることだろう。維持管理に関しても、2カ月間の開催であれば芝コースよりも容易になる。札幌記念がAWの異色なG1として存在感を持つことも可能だ。
 函館競馬場の芝コースは、米国のようなダート化をするプランはどうだろうか。いまの日本競馬は米国との交流が少なくなっている。ブリーダーズカップやケンタッキーダービーに日本馬が参戦意思を示さないのは、日本のダートとの質の違いが大きな問題になっている。またAWから撤退したメイダン競馬場のダートも、米国ダートに質が近い。適性を見極め、米国、ドバイ遠征へつながるような開催が函館で行われれば、新たな魅力を植えつけることができる。
 どちらも莫大な経費が必要なプランで実現は容易ではないだろうが、日本競馬を世界と結びつける戦略がいずれは必要になってくる。それが北海道開催増加に結びついてくれれば、と思っている。

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