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馬産地往来

2021年6月25日

ユーバーレーベンがオークス制覇!

後藤 正俊

 第82回オークスは3番人気ユーバーレーベンが直線で豪快に追い込んで、2着アカイトリノムスメに1馬身差をつけて優勝した。1番人気の無敗の桜花賞馬ソダシは8着に敗れた。ユーバーレーベンは、父ゴールドシップ、母マイネテレジア、母の父ロージズインメイの血統で、新冠・ビッグレッドファームの生産馬。馬主はサラブレッドクラブ・ラフィアン。今年3月に亡くなった岡田繁幸さんが創設した牧場、クラブ法人にとって、創業以来初の3歳クラシック制覇となった。関係者の誰もが「繁幸さんに見てもらいたかった」と思ったことだろう。
 何よりも岡田さんが喜んだに違いないことは、同馬の牝系は岡田さんが導入し育ててきたものだったことではないだろうか。岡田さんは「セリ市や馬産地を巡って馬を買いまくっている」イメージが強かったかもしれないが、じつは自家牝系を大切に育てることにも注力してきた。その代表例が繁幸さんの生産牝馬オカノブルーの血統で、その産駒フレーミングレッド、マイネミレー、マイネレーベン、マイネセラヴィなどを繁殖牝馬としてビッグレッドファームに残し、マイネル・コスモ軍団の中核を築いてきた。
 ユーバーレーベンはオカノブルーの血統ではないが、曽祖母マイネプリテンダーは岡田さんが1997年にニュージーランドで購買した牝馬。外国産馬として日本でデビューし競走成績は4戦1勝2着3回で早くに引退したが、その初産駒がユーバーレーベンの祖母マイネヌーヴェルで、フラワーCなど3勝、中山金杯と福島牝馬S2着の成績を残した。早世したマイネプリテンダーだったが、3番仔マイネルネオスは平地準オープンから障害入りしてJ・G1中山グランドジャンプ優勝。4番仔マイネルアワグラスはシリウスSを勝ち、地方ダートグレード競走で6回も馬券に絡むなど息の長い活躍をした。最後の産駒となった5番仔マイネルチャールズは京成杯、弥生賞を制し、皐月賞3着、ダービー4着、菊花賞5着と三冠すべてで掲示板に載った。そしてマイネヌーヴェルの初仔がユーバーレーベンの母マイネテレジアとなる。マイネテレジアも3戦1勝の成績で早くに繁殖入りした馬だった。まだ20年程度の歴史しかない中で、マイネプリテンダー系は早くもオカノブルー系に続くビッグレッドファームの基礎牝系を形成しつつある。
 ユーバーレーベンの誕生には、交配されてきた種牡馬にも岡田さんのこだわりが見える。岡田さんが「日高の救世主」と称えていた祖母の父ブライアンズタイム。「打倒サンデーサイレンス」の思いを込めて輸入した母の父ロージズインメイ。父ゴールドシップは、サンデーサイレンス種牡馬として最も高く評価し国内シャトルでビッグレッドファームでも供用してきたステイゴールドを父に持ち、父の後継として供用している。オークスが前半72秒5、後半72秒0という淀みのない流れになり切れ味勝負ではなく総合力の争いになったことで、岡田さんがこだわってきた牝系、種牡馬の底力がより発揮できたことも、この戴冠につながったのだろう。
 岡田さんの育成面でのこだわりは「徹底的に鍛え上げる」ことだった。「血統の差を埋めるには鍛錬しかない」と、坂路での猛調教は1歳馬が古馬と併せることもあったし、いまでこそやられていないようだが冬場の凍結した坂路の下りを走らせたこともあった。ソエが出るのも日常だったが「ソエの解消は走らせること」と休みなく乗り続けられた。ユーバーレーベンはそんな厳しい育成を順調に乗り切ったことで、6月14日の東京・新馬戦でデビューすることができた。「早い時期の新馬戦ならば、ノーザンや社台の素質馬がまだ揃っていないので勝ちやすい。まず1勝を挙げておけば、その後の選択肢が広がる」という岡田さんの考えを実践することができた。その後は3戦続けてソダシに敗れたが、当時岡田さんは「オークスの2400mになればソダシに勝てる」とオークス制覇を予言していた。6月14日デビューのオークス馬は、2010年アパパネの7月5日を3週間上回る最もデビューの早い(2歳戦が行われるようになった1946年以降)オークス馬だったが、それは岡田さんの確かな信念により実現された記録だった。
 「ユーバーレーベン」とはドイツ語で「生き残る」という意味。岡田さんはこの世を去ってしまったが、その思いがユーバーレーベンと多くのスタッフの中に生き続けていること、そしてユーバーレーベンが現役引退後はビッグレッドファームで繁殖牝馬となってさらに枝葉を広げ、日本のサラブレッド生産の中に生き残り続けていくことを意味しているのかもしれない。

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