2022年6月24日
新種牡馬にかかる期待
日本ダービーが終了し、翌週から来年のオークス、ダービーを目指す2歳馬のレースがスタートした。今年の桜花賞、オークスは産駒デビュー2年目のドゥラメンテ産駒スターズオンアース、皐月賞は新種牡馬ドレフォン産駒のジオグリフが制した。一方で、ダービーは昨年に種牡馬を引退(最後の種付けは一昨年)したハーツクライ産駒ドウデュースが優勝。今年の3歳が最終世代となったキングカメハメハ産駒はオークスでスタニングローズが2着。日本生まれの2歳世代が血統登録6頭(牡2頭、牝4頭)で、今年の3歳が実質的な最終世代となるディープインパクト産駒は、ダービー5連覇の快挙には一歩届かなかったもののアスクビクターモアが3着に踏ん張った。新旧混在となったクラシックの結果は、種牡馬界のパワーバランスが変革期を迎えようとしていることを如実に示していた。
昨年のJRA2歳リーディングサイアーを見返してみると、上位20頭ですでに死亡、引退しているのは1位ディープインパクト、3位ドゥラメンテ、6位ハーツクライ。18歳以上の高齢なのが7位ダイワメジャー、14位ヘニーヒューズ、17位シニスターミニスター、18位キンシャサノキセキ。一方で2歳新種牡馬は5位ドレフォン、9位シルバーステート、13位イスラボニータ、16位キタサンブラック、20位アメリカンペイトリオット。デビュー2年目は死亡したドゥラメンテを除き8位モーリス、12位リオンディーズ、15位ミッキーアイル。ディープインパクト、キングカメハメハがあまりにも傑出していたため中堅年齢の層が薄くなっており、今後はこれまで以上に新種牡馬にかかる期待が大きくなってくる。
血統登録された産駒のいる今年の2歳新種牡馬は43頭を数える。昨年の28頭から15頭増え、2015年の21頭からおよそ倍増。近年では最も多い頭数となっている。際立った競走成績がなくてもチャンスがあるかもしれないという、変革期ならではの特徴とも言える。血統登録産駒数が70頭以上なのはサトノクラウン123頭、リアルスティール110頭、マインドユアビスケッツ103頭、ベストウォーリア93頭、サトノダイヤモンド91頭、デクラレーションオブウォー88頭、ビーチパトロール87頭、レッドファルクス80頭、タリスマニック70頭の9頭。このうちサンデーサイレンス父系はともにディープインパクト産駒のリアルスティール、サトノダイヤモンドの2頭のみ、キングカメハメハ父系は1頭もいない。国内の繁殖牝馬にサンデーサイレンス、キングカメハメハの血を持つ馬が多くなってきたことで、アウトブリードとして輸入種牡馬、外国産・持ち込みの種牡馬が人気を集めていることも特徴となっている。
サトノクラウン(父マルジュ)はノーザンダンサー、ミスタープロスペクターの4×5で、大多数の繁殖牝馬との交配が可能。デビューから重賞2勝を含む3連勝をしたように仕上がりが早く、古馬になって香港ヴァーズ、宝塚記念とG1・2勝。不良馬場の天皇賞・秋ではキタサンブラックから首差2着とオールマイティな活躍をした。セレクトセールでの産駒平均取引価格は20年当歳(5頭=落札頭数。以下同)が2280万円、21年1歳(6頭)が2900万円。交配牝馬のレベルからそれほど高額にはならなかったが、バランスの良い馬が目立った。丈夫で息の長い活躍をする産駒が多くなるのではないか。
マインドユアビスケッツ(父ポッセ)はデピュティミニスターの3×4。ヘイルトゥリーズンも5×4の配合を持つためサンデーサイレンス系との配合には多少の注意が必要かもしれないが、制約されるほどの濃さではない。ドバイゴールデンシャヒーン2連覇でその成績だけ見ると「ダート短距離」のイメージになるが、その勝ち時計はともに1分10秒台と速く日本の芝レース適性もありそうだ。G1シガーマイルH(D8F)2着の成績から、中距離まで我慢できるように思える。セレクトセールでの産駒平均取引価格は20年当歳(6頭)が1683万円、21年1歳(7頭)が2729万円だった。
リアルスティール(父ディープインパクト)は3冠こそドゥラメンテ、キタサンブラックに一歩及ばなかったが、ドバイターフで世界的な実力を示し、毎日王冠では1分45秒6を出した。全妹にラヴズオンリーユーがいる血統も魅力で、スピードと瞬発力というディープインパクト系の良さを最も良く受け継いだ種牡馬と言えそうだ。セレクトセールでの産駒平均取引価格は20年当歳(9頭)が3433万円、21年1歳(7頭)は6000万円。サトノダイヤモンド(父ディープインパクト)はその能力の高さはもちろんだが、誰もが絶賛する馬体の美しさ、柔軟性が大きな魅力。時計の速い馬場での中長距離戦を最も得意にしており、父と似た種牡馬成績を残してくれそうだ。セレクトセールでの産駒平均取引価格は20年当歳(11頭)が4700万円、21年1歳(6頭)は5917万円。
初年度産駒頭数がそれほど多くない種牡馬の中ではグレーターロンドン(父ディープインパクト、血統登録44頭)に注目している。重賞勝ちは現役最終戦となったG3中京記念のみだが、常に脚部不安を抱えながら7勝を挙げており、その潜在能力の高さは多くの関係者が認めていた。母は桜花賞2着馬ロンドンブリッジ、半姉にオークス馬ダイワエルシエーロ、甥に菊花賞馬キセキがいる輝かしい血統。現2歳世代のセレクトセール上場はなかったが、シルバーステートのような下克上に期待したい。