2024年10月25日
活況のサマーセールとセプテンバーセール
今年は北海道市場のサマーセール、セプテンバーセールをじっくりと見学する機会に恵まれた。スポーツ紙の記者時代は高額落札で話題性の高いセレクトセール、セレクションセールは欠かさず取材に出向いたものだが、サマーセール、セプテンバーセール、オータムセール(以前は8、9、10月市場などの名称だった)はなかなか機会がなかった。たまに訪れた時も8月以降のセールは売却率が低く、セール会場全体の空気がよどんでいるように感じたものだった。サマーセールの過去の成績を見てみると、2000年代前半の売却率は22.4(03年)~31.2%(01年)。2~3割の売却率のセールを見ていると「ほとんど売れていない」と感じていた。だが今年のサマーセールは売却率が82.3%、セプテンバーセールも80.3%と8割を超える売却率。この売却率だと逆に「ほとんど売れている」と感じる。当然、セール全体も活気に満ちていて、馬をひく上場者も笑顔が絶えない。会場には日高特産品やご当地グルメの屋台やイートインに多くの人が集まり、セレクトセール同様にディーラーが高級車を展示するなど、以前と比べて別世界と思うほど華やかになっていた。この原稿執筆時はまだオータムセールが行われていないが、こちらもおそらく好成績となるだろう。
サマーセール、セプテンバーセールの取引馬は地方競馬がメインになるので、好調の要因はやはり地方競馬の復興にあると言える。一時の廃止ドミノの時代から完全に脱却し、どの競馬場も好調な売り上げで推移。それに伴い賞金もアップし、各馬主会の団体購買の補助金も拡大されている。今年からはダート競馬の新体系も本格化し、ダートグレード競走で地方馬の活躍も目立つようになってきた。南関東勢だけでなく、今年の東京ダービーでは高知所属のシンメデージーが4着、ジャパンダートクラシックにはそのシンメデージーだけでなく、岩手のフジユージーン、北海道のブラックバトラーも参戦し、レースを盛り上げた。各地の競馬が確実にレベルアップしている。また、サマーセール出身馬として、21年取引馬からミックファイア、マンダリンヒーロー、ヒーローコール、ベルピット、セブンカラーズ、スマイルミーシャなど、22年取引馬からも前出シンメデージーをはじめダテノショウグン、プリフロオールイン、グラインドアウト、スティールマジックなどが各地で活躍している。中央馬ならレーベンスティールがセプテンバーセール出身馬だった。上場馬全体のレベルが高まり、どの市場にも「お宝」が眠っていることが、馬主の購買意欲を高めている。
ただ南関東を除けば、1000万円超えの高額落札馬が地方競馬で採算を取るのは容易なことではない。牡馬なら500万~600万円、牝馬なら300万~400万円で落札できる価格帯で、活発な競り合いが多く見られた。また、すでに実績を残して価格が高騰気味の種牡馬よりも、種付け料が250万円以下程度の新種牡馬の中から「種牡馬のお宝」を探そうという購買者も目立っていた。セールを見学していて現1歳が初年度産駒の新種牡馬ミスチヴィアスアレックス、フィレンツェファイア、ベンバトルの3頭に注目した。
日本軽種馬協会所有のミスチヴィアスアレックスは米国の重賞4勝馬で、G1カーターH(D7ハロン)では2着に5馬身半差をつけた快速馬。イントゥミスチーフ×スペイツタウンの配合からもバリバリのスピード&パワー型に思われがちだが、産駒は意外にもバランスの取れた馬体で芝・中距離もこなせそうなタイプもいた。母系の良さを引き出す種牡馬なのかもしれない。サマーセール(取引馬22頭)平均598万円、セプテンバーセール(5頭)平均398万円。
フィレンツェファイアはポセイドンズウォリア×ラングフールの米国馬で、ダート8ハロン以下で活躍した。2歳時にG1シャンペンSを制した仕上がりの早さに加え、6歳まで走って38戦14勝、重賞9勝。故障なく、調子落ちもなく走り続けた丈夫さが大きな魅力となっている。産駒は想像通りに筋骨隆々で骨量があり、ダート短距離で丈夫に走り続けてくれそうだ。サマーセール(15頭)平均686万円、セプテンバーセール(7頭)平均476万円。
ベンバトルはドバウィ×セルカークの配合で、母は英国3歳牝馬チャンピオン。ドバイターフでヴィブロス、リアルスティール、ディアドラらを抑えて優勝しており、日本でも馴染みがある。欧州、豪州、UAEの芝マイル~中距離を中心にG1・3勝を含む重賞10勝を挙げ、ダートでもサウジC2着の成績がある。世界的な大種牡馬ドバウィの代表産駒の一頭だと言える。ドバウィ産駒の種牡馬は日本ではマクフィ、モンテロッソが期待ほど動いておらず、その点とやや奥手の競走成績が不安材料ではあるものの、この大物が種付け料250万円という点はやはり魅力となる。ビッグレッドファーム系クラブ法人での募集馬が多く、サマーセール(1頭)748万円、セプテンバーセール(2頭)平均429万円と市場取引馬は少なかったが、日高の生産者にとって大化けの可能性を秘めた新種牡馬と言えそうだ。
内国産種牡馬全盛の時代だが、初年度産駒が来年デビューする輸入種牡馬3頭の今後の動向に注目していきたい。 ※文中の金額は税込。