2024年4月25日
種牡馬や繁殖牝馬の殿堂を!
ブラックタイド、ディープインパクトの母として知られるウインドインハーヘア(1991年アイルランド産、父アルザオ、母バーグクレア)が2月20日、33歳の誕生日を迎え、繋養されているノーザンホースパークの公式Xで、にんじんケーキをプレゼントされる映像が公開された。ケーキを美味しそうに食べている様子はとても33歳の高齢馬とは思えない元気さで、このイベントを見るために訪れていたファンの姿も映っていた。このポストは3月末時点ですでに70万回以上のインプレッションを獲得し、「いいね」も1万件を超えている。同パークにはヴァーミリアン、キンシャサノキセキ、ブラストワンピース、レインボーラインなど現役時代に重賞を制した多くの引退競走馬が繋養されているが、来場者からの「1番人気」は日本では走ったことがないウインドインハーヘアなのだという。
「名馬は生命力も強い」と言われることがある。サラブレッドの寿命はその繋養環境にも大きく左右されるし、著名馬は引退後の繋養制度などにより死亡した際に報道されるという面があるため記録として残りやすい。一概に「名馬だから長寿」という科学的根拠はないが、シンザン、リキエイカン、フォーティナイナーは35歳、ハギノカムイオー、牝馬のカネケヤキ、ケイキロク、エイシンサニーは34歳、その他、カツラノハイセイコ、ニッポーテイオー、ウイニングチケット、ミホシンザン、牝馬ではブロケード、ミスオンワード、ガーネット、フラワーパークらが30歳以上と長寿を全うした。種牡馬として多数の種付け、繁殖牝馬として多くの出産を行って体力的な負担があっても、寿命に大きな影響がないケースも見られる。初子を妊娠中に現役復帰して独G1アラルポカル1着、英G1ヨークシャーオークス3着など5戦したことで有名なウインドインハーヘアは、繁殖入り後も1996年から2007年まで12年連続を含め17シーズンで16頭の産駒を出産している。これだけハードな繁殖牝馬生活を送った牝馬も稀だろう。この生命力の強さ、豊富な体力が、繁殖牝馬として大成功した大きな要因のようにも思える。
ウインドインハーヘア産駒16頭のうち10頭が牝馬で、07年生産のスペシャルウィーク産駒は死亡してしまったが、アイルランドのクールモアスタッドで繋養されていた時代の産駒4頭を含め、9頭はすべて日本で繁殖牝馬生活を送った(ヴェルザンディ、ランズエッジ、トーセンソレイユ、レスペランスの4頭が繁殖供用中)。外国産馬として6戦5勝の成績を残したレディブロンドは09年に死亡したが、産駒ゴルトブリッツがJpn1帝王賞を、孫レイデオロがダービーと天皇賞(秋)を、同じく孫のレイエンダがエプソムCを制した。ライクザウインドは、クイーンCのアドマイヤミヤビ、ニュージーランドTのルフトシュトロームと、孫の代から2頭の重賞勝ち馬が出ている。ランズエッジは、孫のレガレイラが昨年末のホープフルSで、同じく孫のステレンボッシュが今春の桜花賞で優勝。ウインドインハーヘアは早くも一大牝系を築きつつある。さらに父系からも、ディープインパクトとその後継種牡馬たちや、ブラックタイドとキタサンブラックの父子がウインドインハーヘアの血を広げている。レイデオロやイクイノックスの存在も考えれば、その血を引く繁殖牝馬は今後もさらに増え続けていくことが確実だ。
1960年代以降に輸入された繁殖牝馬で、一大系統を築いている馬としてはパロクサイド、スカーレットインク、パシフィカス、ダンシングキイ、キロフプリミエールなどが思い浮かぶ。特にパロクサイドは牝系の広がりに加えて、ドゥラメンテ、ルーラーシップが種牡馬としてその血をさらに広めている。キロフプリミエールもエピファネイア~エフフォーリア、リオンディーズ、サートゥルナーリアと人気種牡馬を次々に送り出している。いずれも日本競馬の発展に大きく寄与している名繁殖牝馬たちだ。
JRAでは「競馬の殿堂」を設け、中央競馬の発展に特に貢献があった馬に対して「顕彰馬」として讃えている。これまで35頭が顕彰馬となっているが、いずれも国内レースでの競走成績を主に選出されており、特に近年の選出馬は現役引退1~2年後に選出されているため、繁殖成績は実質的には加味されていない。「サラブレッド」とは血の継承であり、日本競馬の発展は多くの名種牡馬、名繁殖牝馬により成し遂げられてきていることを考えれば、日本軽種馬協会や日本競走馬協会が音頭を取って「種牡馬の殿堂」「繁殖牝馬の殿堂」を創設し、種牡馬ではヒンドスタン、ネヴァービート、チャイナロック、テスコボーイ、パーソロン、ノーザンテースト、ミルジョージ、サンデーサイレンスなど、繁殖牝馬ではウインドインハーヘアらを顕彰し、その功績を讃えていくことも必要なのではないだろうか。