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馬産地往来

2023年4月25日

ドバイワールドカップデーに思う

後藤 正俊

 ドバイワールドカップデーは、競馬ファンにとってはWBCにも負けない興奮の一日となった。ダートのドバイワールドカップを初めて日本調教馬として制したウシュバテソーロの快挙ももちろん素晴らしいものだったが、昨年の年度代表馬イクイノックスのドバイシーマクラシックで見せた圧倒的な強さも衝撃的だった。これまで追い込み、差しで天皇賞(秋)、有馬記念を連勝していたイクイノックスが、一転して逃げの手に出たのには驚かされたが、これはルメール騎手がこれまでも海外レースでよく見せてきた、外国勢に包まれないための必勝策。同じルメール騎手が騎乗して2006年のドバイシーマクラシックを制したハーツクライも外枠から一気に先頭を奪い、そのまま逃げ切り勝ちを決めた。レース後の騎手インタビューで、3月9日に死亡したハーツクライへの追悼の思いを口にしたシーンも印象深いものになった。
 そのハーツクライは2着との着差が4馬身1/4だった。イクイノックスは3馬身半で着差としてはハーツクライの方が大きかったが、ルメール騎手が普通に追っていれば大差勝ちの手応え。まるでフランケルやバーイードのレースを見ているようだった。しかも相手はBCターフ勝ち馬レベルスロマンス、愛ダービー馬ウエストオーバー、ドーヴィル大賞典勝ち馬ボタニク、ネオムターフCを圧勝したモスターダフ、日本馬もダービー馬シャフリヤール、香港ヴァーズ勝ち馬ウインマリリンとかなりのハイレベル。初の海外挑戦でこれだけ圧倒的なパフォーマンスを披露したイクイノックスの前途は極めて明るい。日本調教馬の悲願である凱旋門賞への挑戦は、その馬場適性からファンの間でも賛否があるが「スピードとパワーを兼ね備えているイクイノックスなら」とつい期待してしまう。
 今後のローテーションは別として、このまま無事におそらくあと1~2年の競走生活を終えれば、種牡馬としての将来が保障されていることは間違いない。今春、種付け料が前年の2倍の1000万円となった父キタサンブラックは、それでも募集開始とほぼ同時にブックフルとなるほどの人気になっているが、イクイノックスが種牡馬入りすればいきなり父に肩を並べる人気になることは容易に想像できる。さらにキタサンブラックの父ブラックタイドは22歳になった今春も種付け料150万円で元気に供用されており、父子3代が同時に種牡馬として供用というレアケースが実現される可能性もある。
 ブラックタイドはディープインパクトの1歳上の全兄として有名で、重賞はG2スプリングSの1勝だけだったことから、どうしても「弟の代替種牡馬」と見られがちだが、セレクトセールでの取引価格は9700万円(税別、以下同。ディープインパクトは7000万円)で当時としては極めて高評価で、育成時から「ノーザンファームのクラシック候補筆頭」と騒がれていた。皐月賞後に屈腱炎で2年余りの休養を余儀なくされ、その後は勝ち星を挙げられないまま競走生活を終えたが、もし弟の存在がなくても種牡馬入りして人気を集めていた存在になっていたと思われる。トータルの種牡馬成績ではディープインパクトと比較するのは酷な話だが、ディープインパクトは父系孫世代で確固たる後継種牡馬はまだいない。今後デビューするコントレイル産駒をはじめ、まだまだこれからの話ではあるが、ブラックタイドは弟よりもひと足先に、しっかりとしたサイアーラインを築くことができそうだ。
 よく似たケースで思い出すのが第17代ダービー伯爵の所有馬ファロスとフェアウェイの全兄弟だ。兄ファロスもチャンピオンSなど30戦14勝、英ダービー2着と優秀な競走成績を残してウッドランドスタッドで種牡馬入りしたが、全弟のフェアウェイが英セントレジャー、チャンピオンS(2回)、エクリプスSなど15戦12勝と兄を上回る成績を残し、同じウッドランドスタッドで種牡馬入りすることになったため、同一血統馬ということで兄はフランスに輸出された。弟に追い出される形になったわけだ。フェアウェイは期待通り、英国2冠馬ブルーピーターなど多くの活躍馬を出し、3度リーディングサイアーに輝く成功を収めた。ファロスも種牡馬として一流の成績を残したが、トータルの成績では弟には及ばなかった。だが代表産駒に英愛リーディングサイアー2回のネアルコ、仏リーディングサイアー4回のファリスがおり、その血脈はフェアウェイ系以上に現代のサラブレッドに広く伝えられている。
 ファロス、フェアウェイ兄弟が現役生活を送っていたのは約100年前。いまから100年後の競馬に、ブラックタイドとディープインパクトのどちらの血が多く伝えられているのか、自分では検証できないことが残念だ。

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