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馬産地往来

2012年12月21日

新・降着ルールを考える

ルール適用は毅然とした姿勢で

後藤 正俊

 馬産地とは直接的には関係ない話題だが、今後の日本競馬にとって極めて重要なテーマとなるだけに、このコラムで取り上げさせていただきたい。1月5日から導入される「新・降着ルール」についてである。
 新制度には3つの改正点がある。審議ランプの改正は、5位までに入線した馬に着順変更の可能性がある場合のみに点灯されることになった。これは方向性としては大賛成で、遅すぎたくらいの改正だ。馬券に関係ない審議で、確定まで延々と待たされるのは、たまったものではない。ファン視点で考えれば、馬券対象となる「3位」までで十分だ。この改正によってレース中に審議ランプが点灯することはなくなる。走行妨害があった時点で対象馬の着順は関係なしにランプは点灯したほうが、ファンサービスには適している。ランプの点灯とは関係なしに、3着までを速やかに着順確定すればいいはずだ。
 失格は、現行では被害馬が落馬・競走中止したケースで適用されていたが、改正ルールでは落馬・競走中止にならなくても「極めて悪質なケース」で適用される。これについては異論はない。落馬・競走中止したら加害馬は失格でなくても「しんがり」に降着になるのだし、極めて重大な妨害を受けた被害馬が馬券対象になるケースはまず考えられないのだから、ファンにはほとんど関係がない。
 さて問題は「降着」の新基準である。現行ルールは「走行妨害が被害馬の競走能力発揮に重大な影響を与えた場合、加害馬は被害馬の後ろに降着する」。これが「走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していたと裁決委員が判断した場合、加害馬は被害馬の後ろに降着」と変更される。JRAは「国際基準に沿ったシンプルでわかりやすく、合理的な基準の導入」と説明している。もっとわかりやすくいえば、レースはできるだけ到着順位通りに確定させ、インターフェアに関しては騎手制裁で対応していくほうが混乱は少ない、ということだと解釈できる。
 その考え方には賛成だ。走行妨害の被害を受けた馬がどのような影響を受けるのかは、その馬の能力、騎手の技術によって大きく違う。体の柔らかい馬なら窮屈になってもすぐに態勢を立て直せるし、パワーがあればぶつけられても飛ばされることはない。騎手の技術が高ければ、態勢が悪くなってもバランスを崩さない。もっとうまい騎手なら、危ないと思ったところには事前に近づいていかないものだ。逆にしたたかな騎手なら、たいした不利がなくても、脚がなければ"降着狙い"で大げさなリアクションを取る、サッカーのシミュレーションのようなことをするケースもある。そんな馬や騎手の能力まで、騎手経験のない裁決委員が見抜けるとは到底思えない。もっとも、騎手経験者を委員に抜擢すれば、という意見にも賛成できない。"元仲間"を取り締まるようなことはやりにくいし、何かと誤解を呼ぶ恐れもある。
 だが降着の基準がいつも論議を呼んでいるというのに、またルールを変えてしまうのは、ファンを混乱させるだけだ。降着制度導入初年度の91年天皇賞(秋)でメジロマックイーンが降着になった"事件"は、いまだに納得できないファンも多くいるが、今回のルール改正に際してJRA担当者は、記者の質問に対して「新ルールならメジロマックイーンのケースは降着にならないのではないか」と回答し、新聞各紙も「メジロマックイーン、カワカミプリンセス(06年エリザベス女王杯1位)、ブエナビスタ(10年ジャパンC1位)は新基準ならセーフ」と書いた。これでファンはますます混乱している。
 カワカミプリンセスやブエナビスタはゴール前での走行妨害だったが、メジロマックイーンの場合はスタート着後の1コーナーでの出来事である。確かに大きな被害を受けたプレジデントシチーは、不利がなくてもメジロマックイーンに先着することはなかったかもしれないが、それは競馬そのものを否定するような考え方になり、裁決委員が「予想行為」を行うようなものだ。この担当者の回答が正しかったのかどうかはともかくとして、とにかく新ルール導入に際してのファンへの説明が、JRAホームページの抽象的な表現ではまったく足りていない。
 この原稿を書いている矢先に、ジャパンCでのトラブルが起こってしまった。新ルール導入直前ということもあり慎重になったのかもしれないが、20分もの審議はJRAの�迷い�と捉えられてしまう。審判に「威厳」がなくなれば、誰も信用しなくなる。降着でも着順通りでも、それがどんなレース、どんな馬が対象であろうと、もっと毅然とした態度を取らなければ、ファンの不信感は増すばかりだ。新ルール導入に関しても、やるのであれば毅然とした態度を徹底し、わかりやすくファンに説明しなければならない。

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