重賞勝ち馬News

Stallions in Japan

会員の勝ち馬

取引馬データベース

よくある質問

日本競走馬協会について

バナーエリア

馬産地往来

2023年10月25日

10月1日の興奮

後藤 正俊

 「10月1日」は世間一般的には年度下半期のスタートとか衣替えの日になるのだろうが、競馬ファンにとって今年の10月1日は大きなイベント、出来事が重なる印象深い一日となった。まず、阪神メインのポートアイランドSは1番人気のドーブネ(牡4歳)が勝利。ディープインパクト産駒のJRA通算勝利数が2749勝となり、偉大な父サンデーサイレンスの記録に遂に並んだ。ディープインパクト産駒は同日現在でJRAにまだ160頭程度の現役馬がいるだけに、2800勝達成は十分に可能だろう。JRAの平地G1は通算71勝でこちらもサンデーサイレンスに並んでおり、今後はその記録でも父を超えられるかどうかが大きな焦点となりそうだ。
 そのドーブネの勝利の10分後、秋のG1シリーズの開幕を告げるスプリンターズSは、鹿毛ながら「白毛一族」のママコチャ(牝4歳、父クロフネ)が重賞初制覇をG1の舞台で果たし、スプリント界にニューヒロインが誕生した。ディープインパクトの血は入っていないものの、馬主はディープインパクトの金子真人ホールディングス(株)。このママコチャのG1制覇を待っていたかのように同日、G1・3勝の全姉ソダシが引退を発表した。金子オーナーが小柄だったディープインパクトをセレクトセールで購買したのは、その時点ですでに「超大物」と評判になっていた1歳上の全兄ブラックタイドを所有していた縁が大きかった。故障のためディープインパクトのような活躍はできなかったブラックタイドだが、代表産駒キタサンブラックを通じて、その父系はディープインパクト系に勝るとも劣らない存在感がある。ソダシ、ママコチャの祖母シラユキヒメの購買については、同馬が誕生した直後にちょうど金子オーナーがノーザンファームを訪れていたという偶然があった。「サンデーサイレンスに白毛の産駒が誕生した」と聞いて、「これも何かの縁」とすぐに購買を決めたという。そのシラユキヒメが「白毛一族」の祖となって、競馬人気を大いに高める役割を果たしている。様々な「縁」が絡み合っている。
 そのスプリンターズSの約2時間半後、盛岡競馬場で第36回ダービーグランプリが行われた。かつては各地のダービー馬が集う全国3歳ナンバー1決定戦として君臨していたが、ダートグレード競走の体系から外れ、近年はその存在価値が薄くなる一方で、全日本的なダート競走の体系整備に伴い今年が最後の「ダービーグランプリ」となった。だがその最後のダービーグランプリは、過去最高ともいえる盛り上がりを見せた。出走頭数はわずか7頭だったものの、デビューから6連勝で南関東三冠の羽田盃、東京ダービー、Jpn1ジャパンダートダービーを制したミックファイア(牡、父シニスターミニスター)と、地方所属馬として初めて米国遠征をしてG1サンタアニタダービーでハナ差2着、ケンタッキーダービーにも出走(12着)したマンダリンヒーロー(牡、父シャンハイボビー)、2~3歳馬レベルは南関東に匹敵する高さのホッカイドウ競馬で史上7頭目の三冠馬となったベルピット(牡、父パイロ)の3頭の初対決が実現したからだ。実績ではJpn1勝ちのミックファイアが断然でも、初の遠征、初の左回りに加えて、盛岡の高速ダートが降雨でさらに軽くなっていた。米国のスピード競馬で好走したマンダリンヒーロー、パイロ×ダイワメジャーのスピード配合のベルピットにも逆転のチャンスがあった。レースはミックファイアがまさかの逃げの手に出て、マンダリンヒーローが徹底マークし互角以上の手応えで直線へ。出遅れたベルピットが最内から脚を伸ばしてくる。手に汗握る叩き合いは、最後にミックファイアがマンダリンヒーローを1馬身半突き放したものの、歴史に残る名勝負となり、ファンにとってダート競馬、地方競馬の魅力がさらに増したに違いない。ミックファイアが今後予想されるデルマソトガケ(牡、父マインドユアビスケッツ)、セラフィックコール(牡、父ヘニーヒューズ)、ヤマニンウルス(牡、父ジャスタウェイ)、春から大きく成長した地方馬ヒーローコール(牡、父ホッコータルマエ)ら同世代の強豪との対決でどのようなレースを見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。
 そして同日深夜には凱旋門賞が行われた。上がり33秒06の猛烈な末脚で無敗の凱旋門賞馬となったフランス調教馬エースインパクト(牡3歳、父クラックスマン)の強さはダンシングブレーヴ級の衝撃だったが、日本調教馬スルーセブンシーズ(牝5歳、父ドリームジャーニー)も馬群を縫って4着に突っ込み、日本産の英セントレジャー馬コンティニュアス(牡3歳、父ハーツクライ)も厳しいローテーションを克服して5着に食い込んだ。この時期のパリロンシャン競馬場としては珍しい高速馬場になったことも日本の血統を持つ馬に味方したことは確かだろうが、もしここにイクイノックス(牡4歳、父キタサンブラック)が出走していたら……と多くの日本競馬ファンが思い描いたに違いない。昨年は絶望的な気持ちにさせられたが、今年は希望の光が再び見えてきた凱旋門賞となった。
 ほぼ1日を通して興奮し続けてグッタリと疲れたが、競馬の魅力がさらに深まった10月1日だった。

バックナンバー

過去の馬産地往来

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

2004年