2023年2月24日
変化しつつある種牡馬のトレンド
馬産地では早くも種付けシーズンがスタートしようとしている。２月７日には社台スタリオンステーション（以下、社台ＳＳ）種牡馬総合展示会が午前・午後の２部制で開かれ、初供用種牡馬のホットロッドチャーリー、サリオスを含む30頭のトップスタリオンがお披露目される。だがこの社台ＳＳ供用種牡馬に、今年はちょっとした「異変」が見られている。展示会前にすでに「BOOK FULL」となっている馬が１月５日に事務局から発表されたのだが、その顔触れはイスラボニータ、キタサンブラック、クリソベリル、コントレイル、サートゥルナーリア、マインドユアビスケッツ、ミッキーアイル、リアルスティール、ルヴァンスレーヴの９頭で、近年は展示会前に満口になっていたエピファネイア、キズナが入っていなかったのだ。
もちろん種牡馬の人気は産駒成績と種付料に大きく左右されるわけだが、2022年ＪＲＡ総合サイアーランキングでキズナは４位、エピファネイアは９位にランクイン。種付料はそれぞれ1200万円、1800万円で前年と変わっていない。22年シーズン前に満口となっていたのは他にキタサンブラック、クリソベリル、コントレイル、サートゥルナーリア、ドレフォン、リアルスティール、ルヴァンスレーヴ、レイデオロの８頭。このうちドレフォンとレイデオロを除く６頭は２年連続、サートゥルナーリア、リアルスティール、ルヴァンスレーヴは３年連続でシーズン前に満口となった。
この社台ＳＳでの人気傾向を分析すると、生産者が単に種牡馬成績だけでなく「コストパフォーマンス」「未知の魅力」「ダート適性」をより重視するようになり、選択の幅を広げていることがうかがえる。もちろんキタサンブラックは初年度産駒からイクイノックス、ガイアフォース、２年目産駒からもソールオリエンス、ラヴェルなど大物を次々に出しており、種付料が昨年の500万円から倍増の1000万円になってもすぐに満口となったのだが、コントレイル、クリソベリル、サートゥルナーリア、ルヴァンスレーヴ、レイデオロはまだ産駒がデビューしていない。
ディープインパクトの最良後継種牡馬として大きな期待を担っているコントレイルは別として、サートゥルナーリアはすでに種牡馬として成功しているエピファネイア、リオンディーズの半弟でロードカナロアの後継という血統、デビューから４連勝でホープフルＳ、皐月賞を制した仕上がりの早さなどから、初年度600万円、２年目700万円、３年目800万円と産駒デビュー前から異例の種付料値上げが続いているにもかかわらず、依然として高い人気を誇っている。クリソベリルとルヴァンスレーヴは地方競馬の売り上げ回復による賞金増額、今年からダートグレード競走で２歳の、来年は３歳と古馬の路線が整備されることを受けて、ダート向きの種牡馬の人気が高まっていることも要因と考えられる。これまでダート種牡馬界をけん引してきたサウスヴィグラス、ゴールドアリュールが死亡し、エスポワールシチー（18歳）、パイロ（18歳）、シニスターミニスター（20歳）、ヘニーヒューズ（20歳）の次の代を担う存在としての期待も大きいし、ともに種付料300万円という価格は地方競馬デビューを想定しても許容範囲と言える。
種付料で言えばイスラボニータの150万円、ミッキーアイルの250万円、リアルスティールの300万円、マインドユアビスケッツの400万円は、コストパフォーマンスがかなり高いと判断されたのだろう。昨年のＪＲＡファーストシーズンサイアーランキングでマインドユアビスケッツが１位、リアルスティールが２位。アーニングインデックス（以下、ＡＥＩ）はそれぞれ1.46、1.39。イスラボニータは21年３位でＡＥＩは1.16。ミッキーアイルは20年４位でＡＥＩは1.43。ミッキーアイルの場合、昨年のＪＲＡ総合ランキングは19位まで上がっており、メイケイエール、ナムラクレアの活躍で重賞ＡＥＩは2.67と上位20頭の中でキタサンブラックと並んでトップだった。
セレクトセールのデータを見ても、ディープインパクト産駒がセールから姿を消したことで種牡馬による売却価格差はかなり小さくなっている。種牡馬全体のレベルが高まってきていて、どの種牡馬と配合してもトップを狙える馬が誕生しているということなのだろう。それだけに現役時の競走成績、種牡馬成績にあまり左右されない、生産者のこだわりの配合、目的意識を持った配合が多くなってきている印象を受ける。