2025年4月25日
「強い日本馬」であり続けていくために
2月22日のサウジCデーは、サウジダービー(G3=D1600m)でシンフォーエバーが2着、リヤドダートスプリント(G2=D1200m)でガビーズシスターが3着、ネオムターフC(G2=芝2100m)でシンエンペラーが1着、1351ターフスプリント(G2=芝1351m)では1着アスコリピチェーノ、2着ウインマーベルのワンツーフィニッシュ、レッドシーターフH(G2=芝3000m)でビザンチンドリームが1着、そしてメインのサウジC(G1=D1800m)ではロマンチックウォリアーとの歴史に残る名勝負を制したフォーエバーヤングが優勝し、ウシュバテソーロが3着だった。
4月5日のドバイワールドCデーも、ゴドルフィンマイル(G2=D1600m)はカズペトシーンが3着、アルクオーツスプリント(G1=芝1200m)はウインカーネリアンが2着、UAEダービー(G2=D1900m)はアドマイヤデイトナが1着、ドンインザムードが3着、ドバイターフ(G1=芝1800m)はソウルラッシュが圧倒的1番人気のロマンチックウォリアーを破る金星、ドバイシーマクラシック(G1=芝2410m)はダノンデサイルが1着、ドゥレッツァが3着、メインのドバイワールドC(G1=D2000m)は日本だけでなくブックメーカーでも圧倒的な1番人気だったフォーエバーヤングが3着に敗れたものの、サウジCデーの1日4勝に続く1日3勝を挙げた。芝でもダートでも、短距離でも長距離でも「強い日本馬」を知らしめたサウジとドバイの結果だった。
昨年は延べ101頭の日本調教馬が海外のレースに出走したが、G1は2着が11回もあったものの勝利はできず、6年ぶりに海外G1未勝利に終わっていただけに、4月の時点で早くも海外G1を3勝していることには安堵感を覚えている。特に、日本馬がどうしても敵わなかった香港の英雄ロマンチックウォリアーを、ダートでフォーエバーヤングが、芝でソウルラッシュが退けた2レースは「溜飲を下げた」という表現がピッタリだった。
だが一方で、海外競馬で日本馬がこれだけの活躍をしてしまうと、ファンのハードルが極めて高くなってしまうことが懸念材料でもある。「ファンのハードル」というのは実にやっかいなものだ。例えばMLBで空前の活躍を続けている大谷翔平選手に対して、ファンは「本塁打王を獲って当然」「今年もMVP」「投手でもサイヤング賞」などと勝手にハードルを上げてしまい、もしそれに届かない成績に終わった場合には、優秀な成績であっても失望してしまう。野球の場合は年間を通した記録の注目度が高くなるが、競馬の場合は1レース1レースでファンが判断してしまう。勝負は時の運であり、一番強い馬、最もレーティングが高い馬が勝つとは限らないことをファンも理解しているはずだし、1番人気馬の敗戦を何度も何度も目の当たりにしているはずなのだが、それが海外競馬となると途端に「チャンピオンシップ」の意識が強くなってしまうのがファン心理でもある。ドバイワールドCでのフォーエバーヤングの3着に「よく健闘した」と称えるよりも、失望感を持った人の方がかなり多かったのではないだろうか。今後、もし海外競馬で日本馬の敗戦が続くと、失望感から競馬に対しての興味が減退してしまうことが心配だ。
日本馬が今後も海外で勝ち続け、ファンの期待に応えていくためには更なるレベルアップが不可欠となる。だがそのためには日本競馬は、生産頭数と比較してあまりにもカテゴリーが多様化してしまっているように思える。時計の速い芝中長距離では確かに日本馬は頭ひとつ抜けた実力があるし、ダートも砂の質によっては互角の戦いができるようになってきた。だが芝短距離では生産を行っていない香港馬になかなか敵わない。ダートでもフォーエバーヤングは米国で通用したが、砂が深く時計がかかる地方競馬のダートグレード競走を主戦場としている馬にとっては、時計が速い米国ダート克服はかなり難しいものかもしれない。BCディスタフを制したマルシュロレーヌもフォーエバーヤングも生粋のダート血統ではなく、芝でも対応できるような血統構成を持っていた。
例えば、JRAの芝コースは芝丈をあと2~3センチ長くして短距離戦でもスピード・切れ味に加えてパワーも要する馬場にしていくことが一手かもしれない。ダートコースは国内産砂の採取量が減少していることもあり、大井、船橋、園田、姫路、門別競馬場でオーストラリア・アルバニー産の珪砂、いわゆる「白い砂」が導入され、時計がかかるようになった。JRAでも補充砂として京都、阪神、小倉競馬場でアルバニー産の珪砂を使用しており、その比率は京都5%、阪神40%、小倉30%になっている(2025年1月現在)。アルバニー産の珪砂は水はけが良く、埃が立ちにくい。一方で導入以降、活躍馬が大型の牡馬に偏りつつある傾向もあるように思う。需要が「大型牡馬」に偏り過ぎることは、生産界にとっても将来的な不安材料となり得る。米国のダートを意識するのであれば、2歳のトップレベルがデビューする門別、3歳三冠が実施されている大井は、国内産の砂に戻すことを考える必要もあるのではないだろうか。