2025年12月25日
フォーエバーヤングの偉業達成に思う
11月1日に米国・デルマー競馬場で開催されたブリーダーズカップ・デーのメインイベント、BCクラシックで日本調教馬フォーエバーヤングが優勝したことは2025年日本競馬界のトップニュースとなった。スポーツ紙などでは「快挙」(達成が困難と思われたことを成し遂げたこと)の見出しが躍った。同馬は24年ケンタッキーダービーで僅差3着、BCクラシック3着、25年サウジC1着、ドバイワールドC3着などの実績もあり、現地でも上位人気に推されていたのだから優勝自体は快挙と言うよりも順当な結果に近かったわけだが、日本調教馬が米国古馬ダート最高峰のレースを制したことは間違いなく偉業達成だった。
この原稿を執筆しているのは11月下旬だが、一部で候補として取り沙汰されているエクリプス賞年度代表馬はともかくとして、現時点ではJRA賞年度代表馬の最有力候補になるのではないだろうか。1999年に凱旋門賞2着のエルコンドルパサーが年度代表馬に選出された際には、選考委員会が記者投票の結果(スペシャルウィーク83票、エルコンドルパサー72票)を覆したこともあり「この1年間、日本で1走もしていない馬を年度代表馬に選出するのはどうなのか」という声も多く物議を醸した。フォーエバーヤングの2025年もBCクラシック時点で海外3戦(2勝)と船橋のJpn2日本テレビ盃1着だけで、JRAでは1走もしていない。だがJRA賞の表彰規則第2条3には表彰対象レースについて、JRA所属馬に限り「地方競馬指定交流競走であって理事長が適当と認めたもの及び理事長が指定する外国の競走」が含まれることになっている。23年ウシュバテソーロ、24年フォーエバーヤングはともに最優秀ダートホース部門でレモンポップに記者投票で及ばず特別賞の受賞という形になったが、規定上は最優秀ダートホース、さらにダートを主戦場とした馬として初の年度代表馬に選出される条件は満たしていたことになる。25年のフォーエバーヤングがもし選出されるのなら「他に傑出した候補馬がいないから」という消極的な理由ではなく、BCクラシック制覇の偉業がしっかりと評価されての選出であって欲しいものだ。
個人的には、サンデーサイレンスの父系からBCクラシック馬が誕生したことが感慨深い。サンデーサイレンスの輸入が決まった時に故・吉田善哉氏は「この馬の子どもでケンタッキーダービーとBCクラシックを勝つことが、これほどの名馬を手放してくれた米国競馬界への恩返しになる」と何度も語っていた。その夢の1つは、直子ではなかったものの、直系の曽孫の代で実現したことになる。やや遅くなったものの、善哉氏もきっと大喜びしているに違いない。ただ、ブラッドホース誌のウェブ版で、曽祖父サンデーサイレンス、祖父ディープインパクトに関しての記述は、私が確認できる範囲では見当たらなかったのは残念だった。
フォーエバーヤングは26年も現役を続行することが発表されているが、おそらく27年からは種牡馬入りするだろう。その種付料にも注目している。11月25日に発表された社台スタリオンステーションの26年種付料はキタサンブラック、イクイノックスがともに2500万円で最高価格。それにキズナ2000万円、コントレイル1800万円、エピファネイア1500万円が続いた。この5頭はいずれも芝レースでの活躍馬であり、ダート向きと思われる種牡馬ではナダルの800万円が最高。社台スタリオンステーション繋養以外の種牡馬ではシニスターミニスターの800万円、ヘニーヒューズの500万円あたりが高額だが、日本の競馬体系、賞金体系を考えるとダート向き種牡馬で1000万円を超えることは難しいと思われていた。フォーエバーヤングの実績を考えれば2000万円級が当然とも思えるが、実施されているJRAダートG1は2競走だけ、地方のダートグレード競走への出走もJRA馬にとって狭き門であることを考えると、生産者には厳しい価格設定とも言える。
一方で、米国供用種牡馬の26年種付料はガンランナー、イントゥミスチーフ、ノットディスタイムがいずれも25万㌦(約3875万円)、フライトラインが12.5万㌦(約1938万円)、クオリティロードが10万㌦(約1550万円)となっている。フォーエバーヤングは米国で種牡馬入りした方が高額種付料を設定できるのかもしれない。日本の至宝ではあるが、いずれは短期リースでも米国で供用し、サンデーサイレンスの血を米国で広めていくことも日本競馬界の役割かもしれない。